アマゾン化する未来 ベゾノミクスが世界を埋め尽くす

発刊
2020年10月28日
ページ数
472ページ
読了目安
645分
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アマゾンの競争優位性と今後もたらす破壊的な影響とは
アマゾンの取材を通じて、そのビジネスモデルの本質を紹介し、今後のビジネスへの影響を書いた一冊。AIとビッグデータを基盤として、急成長するアマゾンの成功モデルと哲学によって、今後アマゾンが事業展開していない分野も破壊的な影響を受けると予測しています。

アマゾン版フライホイール

ベゾスは最も洗練されたAI主導のビジネスモデルを、史上初めて生み出した。それは自ら、よりスマートに、より大きく成長することができる。今やますます、アルゴリズムが会社を運営するようになっている。

ベゾスはアマゾンを、フライホイール(弾み車)のごとく回るように設計した。これはアマゾン社員が、宗教の教義のように繰り返し使う言葉だ。この「フライホイール」という概念は、「ハイテク永久機関」のようなもので、アマゾンの社内文化に深く埋め込まれている。

アマゾンが自社のプライム会員に特典を与えると、より多くの顧客を集めることができる。より多くの顧客が集まると、より多くのサードパーティーの小売業者が、アマゾンのEコマースサイトに参加する。より多くの売り手を引き付けることは、アマゾンの収益を増やし、サイト上の商品の価格を下げ、より多くの利益を可能にする「規模の経済」が生まれることを意味する。それがさらに多くの顧客をアマゾンに集めることになり、フライホイールはどんどん加速する。

 

ベゾスは現在、AIや機械学習、ビッグデータを巧みに活用することを通じて、フライホイールを加速させている。アマゾンでは、AIテクノロジーがあらゆることの土台となっている。例えば、AIによる音声認識を活用したサービス「アレクサ」を開発・改良するために、2019年時点で1万人の従業員を展開しており、その大部分がデータ・サイエンティスト、エンジニア、プログラマーである。2018年までにアマゾンは研究開発に年間288億ドル(約3兆円)を費やすまでに成長しており、この額は世界のどの企業よりも多い。

 

アマゾンはその技術力を活かし、顧客にお勧めする方法を改善し、迅速な配送を行うために、適切な倉庫に適切な商品が常に在庫されているようにしてきた。そして、顧客に関する膨大なデータを収集し、最高のサービス、低価格、驚きの品揃えを提供するアルゴリズムを構築した。最近の同社のシステムは、かつては幹部クラスの人物が下していたような小売業に関する意思決定の多くを、機械が下すレベルまでに達しており、その機械は作動すればするほど賢くなる。

 

ベゾノミクスが世界を埋め尽くす

アマゾンは2019年時点で、米国のオンライン小売業界の約40%を支配し、欧州最大のオンライン小売業者の1つになっている。「プライム」会員数は全世界で1億人を突破している。ベゾスは実店舗での小売り、広告、消費者金融、配送、ヘルスケアなどの分野で、AIのフライホイールを駆使してメジャープレーヤーになることを目指している。

 

この新しい企業モデルを「ベゾノミクス」と呼んでいる。ビジネスの世界は急速に二分されつつある。現状維持を追求する企業と、自社内でAIスキルを構築し、顧客が何をしているか、何を求めているかに関する詳細な情報を大量に集めることで、自らの「ベゾノミクス」を打ち立てようとする企業である。

アマゾンの攻撃を受けずに残っている企業は、幸運にもこのAIの巨人が進出していない分野(重工業、法律、飲食、不動産)にいるか、アマゾンのローラーに押しつぶされるまでの時間を無駄にしているかのどちらかである。

 

ベゾスがAIフライホイールを新たな領域に適用すると、ビジネスのルールが劇的に変わることになる。ビッグデータ、AI、そして徹底的な顧客第一主義がなければ、スタートラインにすら立てなくなるだろう。今後しばらくの間、アマゾンはグローバルビジネスの強力な勢力であり続け、経済と社会に大きな影響を与え、多くの人々が考える以上に破壊的な存在になるだろう。AIフライホイールは様々な業界を駆け巡り、既存の企業は適応するか、撤退するかを迫られるだろう。