リノベーション・オブ・バリュー 負からのマーケティング

発刊
2020年10月22日
ページ数
352ページ
読了目安
488分
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ネガティブなものを価値あるものに転換するマーケティング手法
「古さ」「無駄」「無」「コンプレックス」「黒歴史」という5つの負の事象を価値転換し、優れた顧客体験を生み出すための手法を紹介している一冊。テクノロジーの進化によって、人間らしさが失われつつある昨今において、逆に古さや不便といったことに人の幸福度を高めるポイントがあると説いています。

「負」の中に人間らしさを追求するマーケティング

価値リノベーションとは、マーケティング活動によって「負」の事象が顧客や社会にとって価値あるものに意味転換されることである。価値リノベーションを志向する「負のマーケティング」の終着駅は「生身の人間」または「人間の生」(生きるということ)である。価値リノベーションの事例は、どれもが効率や合理性とは対極にある「人間らしさ」、すなわち「人間回帰」の物語である。

本来、人間らしさとは「計算可能なもの」の外側にある「計算不可能なもの」のはずである。「負」の中にこそ人間らしさが潜んでいる。価値リノベーションは「負」の中に人間らしさを見つけ、「人間の生」を終着駅として目指す絶え間ない価値づくりの旅である。

 

古さが価値になる

新しい製品が生み出されていくと、一般的には古い製品の価値は下がっていく。新しい製品は、その多くが従来よりも高機能で効率的な製品として開発が進められる。しかし、デジタル社会に浸かり、少しの変化では新しい技術に対する感動を感じにくくなっている現代においては「古い」機能が逆に新鮮に映ることもある。古さが価値に変わる要素は次の5つ。

ex.ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ、写ルンです

 

①個人的ノスタルジアに働きかける

懐かしさに訴えかけると商品への好意度が上がり消費意欲が刺激される。

 

②歴史的ノスタルジアに働きかける

懐かしさは、必ずしも当時を経験していなくても感じられる場合がある。物への懐かしさ感情は、テレビや本を通して懐かしいものとして学習され、「意味記憶(知識に関する記憶)」として形成される。

 

③古さと新奇性をミックスする

「古さ」を訴求するには、「新奇性」も合わせて提供することが必要。「普通だったら〇〇を使うが、古いモノを現代の使用方法に適応させるとこのようになるのか」といった目新しさである。

 

④感情的な価値を提供する

ノスタルジア感情や新奇性といった要素を押さえた上で、どのような体験価値を提供するのかを忘れない。

 

⑤象徴的な価値を提供する

快楽感情以外にも「自己表現」など自分にとっての意味づけとしての象徴的価値も有効である。

 

無駄が価値になる

テクノロジーの進化は「便利」をもたらす一方で、「過程」と「手間」が省略し、その「ありがたみ」を感じることができず「達成」「ポジティブ感情」を低くすることがある。さらに「過程」と「手間」の省略化によって、人と人とが協同関係を築く機会が減少している。生活者があえて手間や不便といった「無駄」を選択しない限り、エンゲージメントを得ることが難しくなっている。価値ある「無駄」の作り方は次の通り。

ex.キャンプ、謎解きイベント、ミールキット

 

①人間が介在できる「隙間・余白」を

自らがあれこれ「どうすれば上手くできるのか?」と考える思考活動、「手に触れる、歩く」といった身体活動を必要とするといった余地があるか。

 

②没頭できる「仕掛け」を

「隙間・余白」を埋めるための思考・身体活動に没頭できればできるほど、「無駄」による価値は高まる。重要な点は「手間」をかけて得る体験に価値があるのかどうか。プロセス自体にエンターテイメント性、ゲーム性といった楽しさがある仕掛けが必要である。

 

③人とのつながりができる「仕掛け」を

他者との「つながり」を生み出す。成果を出すためのプロセスにおいて共同で行った方がお互いのためになるといった「互助」の仕掛けであったり、共同で行わずとも同じ「手間」を経験した者同士の「共感」が交わる場をセットすることによって、既に知り合いになっている者同士の「関係性」がより深化されたり、新たな「関係性」の構築ができる。

 

④偶発的・想定外な気づき・出会いがある「仕掛け」を

「寄り道」という仕掛けが「世界を拡げる」という価値を生む。「寄り道」といった非計画な行動が、思いがけない発見・出会いを生み、サプライズが故にポジティブな感情を増幅する。

 

⑤お膳立てによって「便利に無駄」を

「便利に無駄」がないと、高い市場性には成り得ない。「無駄」による市場性を高めるためには、より多くの人が体験できるようにしなければならない。安心・気軽といった便利に「不便」「手間」といった「無駄」を楽しめる仕組みが必要である。