公式より大切な「数学」の話をしよう

発刊
2020年8月28日
ページ数
272ページ
読了目安
310分
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数学の基本を知る
普段、複雑な計算式を目にすることがなくても、検索エンジン、SNS、AI、世論調査、天気予報など、数学は様々な分野で役に立っている。私たちの生活に役立つ数学の基本として、微分積分やグラフ理論、ベイズの定理などの考え方、仕組みを紹介しています。

数学は何の役に立つのか

数学は現代の社会で重要な役割を果たしている。グーグルマップで目的地を入力すると、数秒で複数のルートが表示されるのは、数学をうまく使っているからだ。Netflixでも数学が活用されている。作品ごとに示される「マッチ度」はコンピューターのプログラムが判断している。

グーグルやNetflixで活用されているのは、いずれもグラフ理論と呼ばれる一分野である。但し、生活にかかわる数学の中で重要なのはこれだけではない。例えば、具体的な数値を含んだニュース記事には統計が使われていることが多い。数学が生活に及ぼす影響はかなり大きい。自分で計算することはないにしろ、私たちは毎日様々な計算の世話になっている。

 

数学は問題を単純化する上で大きな役割を果たしている。この時に強みになるのは数学の抽象性だ。そして、数学は物理学者が新しい現象を発見する機会も提供している。数学的にどうも妙な結果が、それまで見過ごされていた現象を示す。研究者には、数理モデルが美しく整ったものであれば、訳の分からない予測でもひとまず受け入れようとする傾向がある。実際、計算の結果が正しかったと、後からわかることもよくある。

数学が現実の世界でうまく機能しているということが、数学の面白いところだ。

 

人間は、量を正確に記録するために数を使い始めた。数にはそれに適した構造が備わっているからだ。数によって順番を示すことで、数えられているものを区別できる。人は数によって量を対象化し、現実の世界を認識する。つまり数には、あるものの特定の性質に注目し、それ以外の性質を無視させるような働きがある。

数学は現象を簡略化するので、必ずしも現実にそっくりなモデルが得られるわけではない。量について考える時は、何を数えているかにさえ気をつければ、数は目の前の現象にぴったり一致する。ところが、少し複雑な現象を数学的に捉えようとすると、モデルで示されるものと現実はうまく一致しなくなっていく。

数学は、ともすれば見逃されがちな身の回りの世界の構造に私たちの関心を向けさせる。数学を用いることで、本来の問題に集中しやすくなるのだ。

 

かつて、数学の役目は厄介な問題の解決法を示すことだった。だが、数学はあくまで生活に根ざしたものという見方は、曖昧になっていった。複数の文明において、数学者は実用にならない問題にも取り組み始めたが、それは自分の名声を高めるためだった。現代の社会でも何より尊敬を集めているのは、そんな「役に立たない」数学を研究する人々だ。しかし、その成果が様々な場面で役に立っていることは事実だ。微積分や確率論、グラフ理論など、応用例は数えきれないほど存在する。

 

私たちはなぜ、数学を「役に立つように」使いたいのか。数学を使うと、問題の見通しがよくなる。現実の世界と数学的な構造の類似性を手がかりに、細部にとらわれずに問題を把握できる。

 

数学がなぜこれほどうまく機能するのか、よくはわからない。思いがけない計算の結果が新しい発見につながる時、何が起きているのか。その仕組みはまだ謎に包まれているが、真相が明らかにされたとしても、数学が特別なものであることに変わりはない。

毎日の生活の中で、複雑な計算式を目にすることはまずない。それでも、身の回りにあるものは数学が研究したことの成果なのである。複雑な構造の建物、天気予報、世論調査や予想、検索エンジンやAI。数学の基本的な概念がわかっていれば、これらのことはもっとよく理解できる。世界がますます複雑化している今、私たちはこの状況を扱いやすくするためのツール「数学」を手にする必要がある。