失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

発刊
2016年12月23日
ページ数
343ページ
読了目安
498分
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失敗から学ぶには何が必要か
失敗から学習するためには何が必要なのか。航空業界と医療業界の比較などの事例を通して、失敗を続ける組織と失敗から学ぶ組織の違いを解説している一冊。

失敗から学ぶ文化が大切

我々が進化を遂げて成功するカギは「失敗とどう向き合うか」にある。安全重視に関わる二大業界、医療業界と航空業界を比較すると、両者の組織文化や心理的背景には大きな違いがある。中でも根本的に異なるのが、失敗に対するアプローチだ。

航空業界のアプローチは傑出している。航空機には全て、ほぼ破壊不可能な「ブラックボックス」が2つ装備されている。1つは飛行データを記録し、もう1つはコックピット内の音声を記録するものだ。事故があれば、このブラックボックスが回収され、データ分析によって原因が究明される。そして、二度と同じ失敗が起こらないよう速やかに対策がとられる。この仕組みによって、航空業界はいまや圧倒的な安全記録を達成している。航空業界においては、新たな課題が毎週のように生じるため、不測の事態はいつでも起こり得るという認識がある。だからこそ彼らは過去の失敗から学ぶ努力を絶やさない。

医療過誤は「10人に1人」

しかし、医療業界では状況が大きく異なる。米国医学研究所の調査によれば、アメリカでは毎年44000〜98000人が、回避可能な医療過誤によって死亡しているという。さらに、別の論文では回避可能な医療過誤による死亡者数は年間40万人以上にのぼると算出されている。

多くのミスが起こる原因の1つは、その複雑さにある。2つ目が資金や人手不足。3つ目が医者が常にとっさの判断を迫られていることだ。患者が緊急の容態の時は、治療の選択肢を全て考えている時間などない。しかし、本当の原因は、組織文化そのものに関わる潜在的な要因だ。

医療業界には「言い逃れ」の文化が根付いている。ミスは「偶発的な事故」「不測の事態」と捉えられ、医師は「最善を尽くしました」と一言言っておしまいだ。しかし航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは失敗を「データの山」と捉える。事故や小さなミスを学習の原動力にする。

我々は自分自身から失敗を隠す

病院で起こるミスも、どんな業界で起こるミスも、その多くは一定の「パターン」を辿っている。

人は誰でも、自分の失敗を認めるのは難しい。何かミスを犯して自尊心や職業意識が脅かされると、我々はつい頑なになる。特に長年経験を積んで高い地位に昇りつめた医師にとって、失敗を公にするのは耐え難い苦痛だろう。社会全体で考えても、失敗に対する姿勢は矛盾している。我々は自分の失敗には言い訳するくせに、人が間違いを犯すとすぐに責め立てる。

研究によれば、人は失敗を恐れるあまり、度々曖昧なゴールを設定する。たとえ達成できなくても、誰にも非難されないからだ。失敗する前から、面目を失わずに済むように逃げ場や言い訳を用意しているのである。

そして、人は失敗を隠す。他人から自分を守るばかりでなく、自分自身からも守るためである。我々には、失敗を記憶から消し去る能力があるという実験結果も存在する。我々は皆、失敗から学ぶどころか、頭の中の履歴書からきれいに削除してしまっている。

試行錯誤し、進化せよ

失敗から学ぶためには「適切なシステム」とその潤滑油となる「マインドセット」の2つの要素がカギになる。

失敗からうまく学んでいる組織は、どこも例外なく、ある特定のプロセスを実践している。適応の積み重ね「累積淘汰」と呼ばれるメカニズムだ。累積淘汰は何らかの「記憶システム」があれば機能する。世代ごとに行った選択を記憶し、それを次世代へと引き継いでいく。革新的と言われる企業の多くは、進化のプロセスを意識した戦略を取り入れている。