重力波は歌う アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち

発刊
2016年6月16日
ページ数
296ページ
読了目安
455分
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アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たちのドラマ
アインシュタインが100年前に、一般相対性理論で予言した重力波の存在。
ブラックホールの存在を証明する重力波を、観測するために、これまで様々な学者が奮闘してきた歴史を紹介する一冊。

ブラックホールの衝突で時空に波が生じる

宇宙のどこかで、2つのブラックホールが衝突する。どちらも恒星並みの質量を持ちながら、サイズは1つの都市ほどしかない。重力で互いにつなぎ留められた2つのブラックホールは、最期を迎えるまでの数秒間、両者が接触することになる点の周りを何千回も周回して時空をかき回し、やがて衝突して合体し、1つの大きなブラックホールとなる。宇宙の誕生以降で最大級となる途方もないエネルギーがかかわるこの事象は、太陽10億個分の一兆倍を上回るエネルギーを生み出す。ブラックホールは完全な暗闇の中で衝突し、この衝突で爆発的に放たれるエネルギーは一部たりとも光として現れない。したがって、望遠鏡でこの事象を観測することはできない。

2つのブラックホールの合体により生じる膨大なエネルギーは、純然たる重力現象という形で、時空の形状の波動、すなわち重力波として発散される。重力波とは、物質媒体なしで伝わる音のようなものである。ブラックホール同士の衝突によって音が発生するのである。

重力波を観測する

重力波の音を聞いた人間は、これまでに1人もいなかった。重力波を記録した装置もなかった。衝突現場から地球までは光速で進んでも10億年ほどかかるかもしれず、ブラックホールの衝突で生じた重力波が地球に到達する頃には、衝突した時の大音量も感知できないほど弱まっている。重力波が地球に届く頃には、宇宙の響きは地球3個分ほどの長さが原子核1個分だけに変化するに等しい、微小なものとなっているはずだ。

この重力波を捉えようという動きは、半世紀ほど前に始まった。レーザー干渉計型重力波観測所(LIGO)は、国立科学財団が資金提供するプロジェクトとして、これまでのところ最も高額なものとなっている。総費用は10億ドルを超え、数百人の科学者が参加する国際的な協力体制のもと、LIGOには関係者の全キャリアと数十年に及ぶ技術革新が注ぎ込まれている。

一般相対性理論で予言された重力波

ブラックホール同士が衝突すると、時空に波が放たれる。空間的な距離と時間的なテンポの収縮と膨張が、海の波と同じように宇宙全体に、時空の形状の変化として広がっていく。重力波は音波ではない。しかしエレキギターの弦で生じた波がアンプで音に変換できるのと似た仕組みで、重力波も音に変換できる。

MITのライナー・ワイス教授は、1968年か69年頃の新米教授時代、アインシュタインの理論である一般相対性理論を扱う科目を自分でもよくわからぬままに教えていた。そこであるアイデアが浮かんだ。思考実験の課題として、物体間で光線を往復させて、重力波を測定しよう。宙に浮かべた鏡を使って、高精度クロックよりもはるかに精度の高い「干渉計」という装置を作ったらどうかと思いついた。このアイデアからLIGOが生まれることになった。

ブラックホール連星を観測

ワイスが最初にLIGOを思い描いた時、重力波源の存在はさほど確実ではなかった。ブラックホールが傍らの恒星を破壊しているという証拠は光で見えている。銀河の中心に超大質量ブラックホールがあるという証拠も見えており、その位置も、その周りを回る恒星の動きを基に明らかにされている。しかし、人間がブラックホールを本当の意味で見たことは一度もなかった。

2015年9月14日、装置が観測モードで放って置かれてから、検出器がバーストを記録した。重力波は南天からやってきて、ルイジアナをあっという間に駆け抜けてまずLLO(リヴィングストン観測所)で音を立ててから、高速でほぼ大陸面に沿って進んで、10ミリ秒と経たないうちにLHO(ハンフォード観測所)に達した。