正しい施策だけでは組織は動かない
論理と効率だけで武装しても、人も組織も動かない。人は正しい論理で矯正された時ではなく、自分の存在を丸ごと受け止めてくれる「器」に出会った時、初めて変わることができる。
組織運営における「施策・制度」と「風土」の関係は、「中身」と「器」の関係に似ている。どれほど良質な水(施策・制度)を用意しても、それを受け止める組織の器が小さければ、水は溢れて制御不能になる。現代の組織では、目的志向の合理的な管理によって、「器」が育ちにくくなっている。効率性を優先するあまり、コミュニケーションという余白を削り、人を機能や役割で規定し、関係性が希薄になっている。
組織の器とは「多様な個性を持つ人々を受け入れる組織のあり方」と定義できる。組織の器が大きければ、1人1人の個性が活かされ、それぞれが相互に作用して組織全体の力になる。組織の器は組織の構成員によってつくられ、とりわけ影響力を持つ経営者・管理職・人事部のあり方が重要になる。
組織のタイプ
組織の器の大きさは、次の4つのタイプで捉えることができる。
①統制・画一型:同質性重視 × 規律性重視
規律を最優先し、かつ自分たちと同質な人間であることを求める組織。「言われたことを守り、空気を読む人」しか存在できない、器が小さい状態。
②機能・契約型:多様性重視 × 規律性重視
最低限の規律さえ守れば、どんな人がいてもいいスタンス。規格外の才能やルールを超えてイノベーションを起こす人材は暗黙の内に排除しがちになる。
③理念・突破型:同質性重視 ×可能性重視
規律による管理ではなく、ビジョンやパーパスへの共感によって、メンバーの力をストレッチさせようとする組織。組織が拡大し、熱量が違う人や異なる正義を持つ人が入ってくると、壁にぶつかる可能性がある。
④自律・生態系:多様性重視 × 可能性重視
多様な背景を持つ人々が共存するだけでなく、それぞれの違いが化学反応を起こすようなストレッチが推奨される。
多様な価値観を持つ人々が共存し、それぞれの視点や能力を最大限に発揮できる環境をつくってこそ、組織の強さが活かされる。
そのためには、「正解ありきの指導」という発想を見直し、「管理による統制」から「器づくりによる自律」へとパラダイムを転換することが求められる。管理による統制を重視すれば、実力主義や成果評価が進み、器の小さい人や組織に権力が集中するようになる。その結果、自己中心・短期利益優先の圧力が強まり、権力者に従順な風土や閉鎖的な関係が生まれ、ますます管理が強まっていくという負のループがつくられる。
一方、自律性を重視し、可能性を評価し、相互学習を進めることで、器の大きい人や組織に権力が分散される。その結果、組織・社会全体の長期利益を考慮できるようになり、心理的に安全な関係づくりに向かい、多様性や異質性を受け入れて革新を志向するようになる。さらに自律性が高まっていく正のループが生まれる。
器の真価は、知識や経験といった中身の量ではなく、新しいものを受け入れるための「余白」にこそある。
組織・人事の4つのリデザイン
器づくりによる自律型組織に転換するための方策には、次の4つがある。
①人事の思想のリデザイン
施策を導入する前に、まず「私たちは人や組織をどのように捉えているのか」という根本的な思想を明確にする必要がある。思想と施策が一致していないとメッセージが矛盾し、現場は混乱する。
器を育てる人事の思想では、「静的な安定」よりも「動的な拡張」を重視する。
- 変化への姿勢:変化を受け入れ、新しいことに挑戦し続けながらも、核となる価値観は保つ
- 失敗と変化の捉え方:失敗は学びの機会、変化は成長の機会
- 成長の捉え方:常に成長し変容し続けることが目標
- 多様性への態度:創造性の源泉として活かす
②評価基準のリデザイン
現場からは「実際に評価されることが本当に大切なこと」と理解されるため、評価基準のリデザインは組織の器を広げる上で重要な取り組みとなる。
器を育てる組織では、成果だけでなく、「あり方」も評価要素に加える。あり方の評価は、行動の背後にある姿勢や価値観そのものに焦点を当てる。器の評価は、原則として定量化には適さず、対話を通じて定性的に理解していく。
③対話の場のリデザイン
評価基準を整えても、日常のコミュニケーションが変わらなければ、器は育たない。現代の組織には対話の「余白」がないため設計する。
- 雑談などの時間をつくる
- 気軽に話せる空間をつくる
- 部門を超えた交流の機会で仲間をつくる
④共に変容するプロセスのリデザイン
組織の器を成長させる組織版ARCTモデルを回す。
- 蓄積:組織としての経験を積み重ねる
- 認識:組織としての限界に直面する
- 構想:組織としての新しいあり方を描く
- 変容:組織として試行錯誤を繰り返す