日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか?

発刊
2025年10月29日
ページ数
232ページ
読了目安
273分
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世界の食のトレンドと日本のガストロミーツーリズム
地方特有の食文化を求めて旅をする「ガストロミーツーリズム」が、なぜ富裕層の間で流行しているのかを解説している一冊。

世界の食のトレンドが「個性重視」に変わったことで、食に求められる体験が重視されている。その中で、豊かな食材を求めて地方に移住するシェフが増えている現状と、日本の地方のガストロミーツーリズムの様々な事例が紹介されています。

富裕層の旅は地方の美味しいレストランへ行くこと

今、地域特有の食文化を求めて旅をする「ガストロミーツーリズム」が、世界の富裕層の間で流行している。一昔前は「旅=観光名所を回ること。そのついでに美味しいものを味わう」だった。ところが、昨今の世界の富裕層は「旅=地方の美味しいレストランへ行くこと。そのついでに観光名所を回る」というように、主従が逆転している。

さらに彼らが重視しているのは「人とは違う体験」をすること。だから、人がいなければいないほどいい。行きづらい場所であるほど希少価値が高い。そのような価値基準に基づき、日本人ですら知らない隠れた名店に足を運んでいる。

 

今の富裕層はITや金融等の分野でIPOを果たした企業家たちが中心となりつつある。彼らは頭の中で常に世界の動きを読み、次のビジネスチャンスを狙っている。そのため「THE・お金持ち」な行動にはあまり興味を示さない。金さえ払えば簡単にできることをしても、面白くもなく自慢にもならないからである。彼らが旅に求めるキーワードは「誰も見つけていないものを見つけること」である。まだ多くの人がその魅力に気づいていない場所へいち早く足を運び、魅力的な店を発見したことを発信することで、承認欲求を満たして喜びを得ている。

こうした富裕層の動向の背景には、なんでも手に入る時代になったことがある。世界が均一化し、その土地ならではの個性が失われつつあるからこそ、そこでしかできない「とがった個性」に心惹かれるのである。

 

「王道」から「個性重視」へ

個性重視の流れは、世界の食の潮流からも見て取れる。今、世界の食のトレンドは、王道のフレンチやイタリアンから、北欧料理やペルー料理などへと移ってきている。そもそも、フランス料理やイタリア料理が王道となり得た最大の理由は、温暖な気候に恵まれ、食材が豊富だったことにある。それに対して北欧やペルーは、気候や地理的制約、発信力の弱さなどにより、苦汁をなめてきた歴史がある。そうした中で、創意工夫や磨き上げてきた技術が、ようやく世界の富裕層に発見されてきたことに加え、食材を無駄にしないというSDGs的な観点が追い風となり、脚光を浴びている。

 

こうした「王道」から「個性重視」の流れをさらに後押ししたのが、2002年に登場した「世界のベストレストラン50」とフーディーの登場である。「世界のベストレストラン50」は、世界の食のプロ1000人以上が投票し、ミシュランとは異なる視点でランキングを作成しているのが特徴であり、食を通じたストーリー、社会との接点という、いわゆる「体験」が大きな評価軸になっている。

 

この流れによって、なんでも揃う東京で作られる料理ではなく、限られているが、その分とんがった食材がある地方で作られる料理が確実にトレンドになっている。

 

地方で大成功する店が増えている

ここ数年の急速なインバウンドの増加を受けて、日本でも食を使った地方創生の動きが活性化している。観光庁は富裕層の地方誘致を促進することを目的に、集中的に支援するモデル観光地11地域を発表し、ガストロミーツーリズム促進のために補助金を出している。

 

地方に魅せられて、東京から地方へ移住したシェフはたくさんおり、世界の名だたる店で修業を積んだシェフが、日本に帰国した後に、東京ではなく地方で店を構える例も増えてきている。地方の魅力は生産者と距離が近く、鮮度も抜群である。そこにしかない最上の一皿を提供するために地方へ行きたいという気概があるシェフが確実に増えている。

 

田舎で店を出して、海外から人が来るほど成功する要因は、大きく2つある。

①「ヘンタイ」がいること

ヘンタイとは、圧倒的なカリスマを指す。損得勘定やマーケティング的な発想を超えて、自分が本当にやりたいことに突き進む人のことである。周囲の評価を気にせず、常識や流行に左右されず、純粋な情熱だけで突き進んでいく。その生き様が人を動かし、気づけば周囲に同じような熱を持つ人たちが集まって、ムーブメントが生まれていく。かつては人口の多い都会にシェフが集まったが、今やヘンタイシェフは、食材の豊かな地方に移り、客が都会から来るようになった。

 

②地域に根差した本物の食材や文化を掘り起し、それを独自の表現で伝えること

目の前に出される皿の奥には、誰かがこだわり抜いた食材やシェフ自身の人生そのものを感じさせるストーリーがある。だからこそ、人はわざわざ地方に足を運び、そこだけの食体験に価値を見出す。

 

米や魚が美味しい地域は、日本中にいくらでもある。唯一無二の価値がなければ、人はわざわざお金と時間を使ってその地方まで足を運ばない。そのため、「ヘンタイ」の存在が大切になる。