食欲の攻略書 なぜ私たちは食べ過ぎてしまうのか

発刊
2025年8月27日
ページ数
480ページ
読了目安
635分
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ダイエットでは痩せられない
ロンドンで最も予約の取れない肥満治療病棟を設立した世界的権威の外科医が、人間の体重をコントロールするメカニズムと肥満のメカニズムを解説し、根本的に痩せるために必要なことを紹介しています。

一般的なダイエットでは、必ずリバウンドし、長期的に効果を得られないとし、食生活を根本的に変えることの大切さを説いています。肥満の根本的原因となる食事とは何かがわかり、太らない食生活にするために必要なことを理解することができます。

体重をコントロールするメカニズム

食欲と代謝、脂肪の蓄積または減少についての研究「メタボロジー」で覚えておくべき大事な法則は2つ。

 

①エネルギーの利用と貯蔵:「摂取エネルギー」-「消費エネルギー」=「貯蔵エネルギー」

私たちが消費するエネルギーの約70%は、呼吸や心拍、体温調節、さらにはすべての細胞の化学反応を介して消費される。こうした体で自動的に行われるエネルギーを基礎代謝という。通常消費する残りの30%のエネルギーは以下の2つ。

  1. 非運動性熱産生:日々の生活を送るために使うエネルギー
  2. 運動によるエネルギー消費:運動をする時に消費するエネルギー

 

過剰なエネルギーは脂肪細胞に貯蔵される。脂肪内のエネルギーがあれば、私たちは食べ物を口にしなくても30日ほど生きていける。

 

②負のフィードバックシステム

様々な器官には、生態系の負のフィードバックシステムがある。これは、人体を一定の状態に保っておくための防御機構だ。体温や体内の水分量の自動調節もその例である。同様にエネルギー代謝にも負のフィードバックシステムが働き、体重は一気に増えないようにコントロールされる。つまり、過食によってエネルギーが過剰に摂取されるほど、体重増加を避けるべく、その余分なカロリーを代謝率を上げて燃焼させようとする。逆に摂取エネルギーが少なければ、消費エネルギーも少なくなる。

 

この飢餓と代謝のスイッチを切り替えているのが、脂肪細胞で生成され、視床下部に働きかけるホルモン「レプチン」だ。脂肪が増えれば増えるほど、血中のレプチンが増える。レプチンは、私たちがどれくらいの脂肪を貯蔵しているかを視床下部に伝えることで、食欲を抑制し、満腹感と代謝率を上げる。逆に、ダイエットで体重が減ると、血中のレプチン量も減少し、食欲を増進させ、満腹感を抑制し、安静時代謝を低下させる。

 

食べる量は意識的にコントロールしているように思えるが、実のところ基本的な空腹感や摂食行動をコントロールしているのは潜在意識の脳だ。つまり、体重は意識してコントロールできるものではなく、食事療法では体重を減らせない。

脳が算定する、生存に必要なレベルのエネルギー(脂肪)貯蔵量を体重のセットポイントという。脳は、負のフィードバックシステムを使って、体重を設定された数値にし、そこで維持する。残念ながら、体重のセットポイントは常に健全な体重に設定されているわけではない。肥満の原因はセットポイントにある。

ダイエットをして体重を落とすことで、いずれ飢餓状態に陥るかもしれないというシグナルが脳に送られれば、減らした体重が元に戻るだけでなく、必ずセットポイントが少しずつ上昇し、最終的にはダイエットを始めた時よりも太ってしまう。

 

肥満になるメカニズム

体重を減らし、それを維持していく秘訣は、体が体重のセットポイントをいかに調整しているかを理解することだ。私たちの食物摂取を左右するシグナルは、食欲と満腹感という2つがある。食欲と満腹感を左右するのは、脳に作用するホルモン「レプチン」である。レプチンが過剰になれば、食欲は減退し、代謝は上がる。しかし、レプチンは濃度が低ければ適切に機能するが、濃度が高くなりすぎるとその働きを止めてしまう。その限界点に達すると、レプチン抵抗性と言われる現象が起こる。脳は高濃度のレプチンの存在に気づかないため、脂肪が過度に貯蔵されていることにも気づかない。

 

レプチン抵抗性を正し、脳が高濃度レプチンの存在を認識できれば、脳は自己修正できる。この変化を起こせれば、食欲と低代謝も正せて、体重も正常値に戻せる。レプチン抵抗性の原因は、以下の組み合わせと考えられる。

  1. 血糖値をコントロールするホルモン:インスリン
  2. 体内の炎症をコントロールするタンパク質TNF-a

インスリン濃度が高くなり、同時に体内で多くの炎症が発症すると、レプチンは機能しなくなる。私たちが現在食べている糖分や小麦などの加工された炭水化物たっぷりの西洋の食事は、インスリン濃度を高めやすい。

 

私たちが口にする脂肪の種類は、健康や体重に大きな意味を持つ。特別な脂肪酸であるオメガ3とオメガ6は、いずれも体内では生成できないため、ビタミン同様食事に不可欠である。それぞれの脂肪酸を摂取する量(比率)から、大きな影響を受けるのが代謝や体重であり、体内の炎症の程度である。1980年代以降、西洋の食事にすることで変化した摂取脂肪のタイプと量は、本来は4対1だったオメガ6とオメガ3の比率を変え、現在では50対1にまでなっている。細胞内のオメガ6の上昇は、炎症増加の原因となり、インスリンの機能低下をもたらし、レプチンの効果を鈍化させている。

 

体重のセットポイントを低値にリセットしない限り、減らした体重の長期維持はできない。食生活を変えてインスリン濃度を下げれば、体重は減らせる。