電通鬼十則の記憶 ~電通事件の批判の中で~

発刊
2018年8月10日
ページ数
168ページ
読了目安
177分
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推薦者

働き方改革の本質とは何かを電通事件から振り返る
電通OBが、電通事件で批判の的になったビジネス訓「電通鬼十則」の意味を回顧し、本当の意味での「働き方改革」とは何かを説く一冊。

電通の仕事

広告会社はクライアントのニーズに呼応して広告の範疇の作業をする。例えば、ある商品を発売するとなると、その商品情報をメディア、特にマスメデイア4媒体(新聞、テレビ、雑誌、ラジオ)を使って、全国、時には特定の地域に流す。マスメディアでは行き届かないところにはチラシや屋外広告などでフォローする。さらに、消費者に直接、商品を見せ購買刺激を与えるセールスプロモーションや店頭イベントのようなことも広告会社の仕事である。そして、消費者の印象や動向を得るための調査なども行う。

電通は広告会社の範疇にあるが、それを越えたビジネスが多岐にわたっている。広告の仕事は主要な仕事だが、クライアントが望めばどんな活動にも入っていく。そして、そのクライアントの発展のために尽くす。

社員は勤務する会社が広告の会社とは誰も思っていない。ビジネスの種はどこにもある、というのが電通の社訓と考えて良い。電通のビジネスには分野がなく、何でもビジネスにする努力をする。

鬼十則

電通には「鬼十則」というビジネスのための信条のようなものがある。これは電通4代社長の吉田秀雄が作ったものである。社員手帳には半世紀もこの十則が掲載されてきた。

①仕事は自ら「創る」べきで、与えられるべきではない。
②仕事とは、先手先手と「働き掛け」て行くことで、受け身でやるものではない。
③「大きな仕事」と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
④「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
⑤取り組んだら「放すな」、殺されても放すな、目的完遂までは・・・。
⑥周囲を「引きずり回せ」、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきがある。
⑦「計画」をもて、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
⑧「自信」を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらない。
⑨頭は常に「前回転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
⑩「摩擦を怖れるな」、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

これは経営理念ではない。個々の社員に判断を任せたビジネス訓であり、社員にビジネスへの情熱と行動による自信を受け付ける格好の言葉だった。よって社員の誰も命令書や指示書とはとっていない。

ところが今回の事件で世間の電通批判の原点にされたのが、この鬼の十則である。これが「悪」の象徴であり古き悪しき体質そのもので事件が起きるのも当然だ、と言うように見られた。

実は電通は近代的な会社で個々の働きを尊重する会社である。自主的に仕事を開拓するという気風があり社員の個々が上司の顔色をうかがうことなく仕事を創ることをモットーにしている。そして、個人個人が「仕事を仕切る」ことを誇りにしており、それに情熱をかけている。

労働時間ではなく、働く人の幸福とは何かを考えよ

電通の仕事は創造性が命である。その創造性はオフィスだけで生まれるものではない。そして今、求められている働く時間としての60時間や80時間といった限られた時間で生まれるものではない。これからの未来の仕事は創造性が鍵になる。

今、政府は「働き方改革」に取り組み始めた。しかし、実態は労働時間の軽減に焦点が当てすぎ、本質を外している。「働き方」とは、個々人が持つ個性や能力を生かし仕事に達成感と満足感を得、それを通して個々人の生活や家族の幸福を築き、さらに社会に貢献できることを基準と考えそれに向かって何をするかということ。

「働き方」は人の生き方や考え方、また社会のありよう、あるいは哲学に起因するほど深いものである。大切なことは、働く人が幸福になる仕事をどう会社が、職場が応援するかが重要で、時間の問題ではない。