孤立感を生み出す人間構造
つながりやコミュニケーションが少ないことが孤立感をもたらすわけではない。つながりの数やコミュニケーションの時間が多い人たちと少ない人たちの孤立感の数値に、有意な差は見られなかった。
しかし、孤立感を抱きやすい人には、その人の人間関係の「形」に特徴的な傾向があった。
- V字:A-あなた、B-あなた
- 三角形:A-あなた、B-あなた、A-B
よく会話する相手が何人かいるとして、その中から2人を選んだ時に、AさんとBさんが会話をしない関係の場合、この3人の関係はアルファベットの「V字」の形になる。一方で、AさんとBさんも会話をする関係だと、この3人の関係は「三角形」になる。
ある人の周りにV字が多いと、その人は孤立感を抱きやすい。ある人の周りに三角形が多いと、その人は孤立感を抱きにくい。つまり、孤立感を生んでいたのは、人間関係のつながりのV字構造である。
AさんとBさんとはよく話をする関係なのに、AさんとBさんの間に会話がないという場合、それはAさんとBさんとは、それぞれ別の用事でつながっているからである。一方で、AさんとBさんの間にもつながりがある場合、それは3人が用事だけの関係ではなく、仲間同士だということになる。つまり、V字か三角形かの違いは「用事だけのつながり」か、「仲間関係」かの違いである。
V字の関係では、この仕事はAさんの仕事ではないか、AさんとBさんのどちらを優先すべきか、といった区別や優先度の決定ばかりにエネルギーを費やしてしまうのが特徴である。
現代社会の論理的構造が孤立感を生む
現代の社会に孤立感が拡がっているのには、構造的な理由がある。私たちが仕事を論理的に考えれば考えるほど、必然的に孤立感が生まれる仕組みになっている。私たちは、複雑な現実を複数のカテゴリーに分割して理解しようとする。例えば、企業組織には様々な役割が必要なので、階層的に部署を分割しようとする。このような階層的な分解は「ロジカル・シンキング」の重要な要素である。プロジェクト管理においても、このような分割が重視される。この論理的分割により、組織図のつながりはトップから平社員まで、すべてがV字型のつながりで構成されることになる。
しかし、分割は人の視野を狭くする。自分の仕事の範囲だけを見ることになり、周りが見えなくなり、自分の仕事の位置付けがわからなくなる。これは孤立感を生む。ロジカル・シンキングを追求することは、必然的にV字の関係を生み出し、従業員に孤立感とうつ傾向をもたらすのである。この孤立感への特効薬とも言えるのが、三角形のつながりである。
三角形のつながりが幸福度を高める
V字か三角形のどちらがその人の周りに多いか。そのつながりの構造の違いが、人の幸せ・不幸せに決定的な影響を持つ。この法則は、個人のレベルだけでなく、コミュニティのレベルでも成り立つ。コミュニティの中に三角形が多いかどうかが、コミュニティ全体の幸せ・不幸せの総量に関係する。
V字は機能・役割として、用事だけの関係であるのに対して、三角形は困った時に仲間として助けてくれる関係のことである。「仲間はずれ」になりたくないというのは、人間の大きな本能であり、根源的な欲求である。三角形の中にいるということは、仲間に囲まれていることを意味する。仲間の内にいるという心理的安全性が、人間の本能的・根源的な欲求を満たし、孤立を感じにくくさせ、結果として幸福度を上げると考えられる。
異質な3者を統合する
V字構造を基底としたロジカル・シンキングとは別の新たな視点で物事を考えなければ、孤立問題、分断が引き起こす現代の社会問題を乗り越えることはできない。
今後は、ロジカル・シンキングの特徴と対になる以下の3つの視点が求められる。
- 自分の損得だけからものを見ない
- 自分と他者、担当範囲と担当外、社内と社外などの分類や区別をしない
- 必ずしも必要ではない関わりをも歓迎する
こうした思考を「トリニティ・シンキング」と呼ぶ。私たちは日々、異質なものを区別するか、一体化するかという選択を迫られている。この分割を越えて、統合を選択することが必要である。
トリニティな組織は問題解決能力が高い
三角形が多いトリニティな職場は、働き手の幸福度が上がるだけでなく、生産性も有意に上がる。
複雑な要求があった場合、担当者個人の知識・能力だけでは対応しきれないことが多く、周りの人たちが持っている情報や能力によって助けてもらう必要がある。このような仕事をうまく遂行できる人には、知り合いの知り合いまで含めて何人の人にたどり着けるかを示す「到達度」が高いという特徴があった。
組織内の人々の到達度の平均値が高い状態をつくるには、組織に三角形を増やす必要がある。トリニティが豊かになれば、知り合いのその先に知り合いが増え、問題解決能力が高くなるのである。