俺のイタリアン、俺のフレンチ ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

発刊
2013年4月3日
ページ数
240ページ
読了目安
259分
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行列のできるお店はこう作れ!
行列の絶えない飲食店「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」はどのようにしてできたのか?ブックオフの創業者でもある著者が「競争優位性」の作り方を紹介。ブックオフ創業までの物語も収録された自伝的な1冊になっている。

2勝10敗の事業家人生

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は、ビジネス人生において13戦目の事業だ。これまでの12勝について振り返ると、勝敗は2勝10敗。そのうちの1勝が中古ピアノの販売で、もう1勝がブックオフである。ブックオフは12戦目だが、これ以前の事業展開には、様々な失敗があった。

 

社会人の第一歩は、家業の精麦工場だった。全農の下請けとして、畜産のための配合飼料工場で働いた。米国から輸入されるトウモロコシ、コーリャン、アワなどからなる飼料が入った30kgもの袋を担ぐ重労働の毎日だった。会社は「山梨くみあい飼料株式会社」となって続き、28歳当時は実質的な社長だった。しかし、経営が次第に安定してくると、農協関係の人がどんどん入ってくるようになり、経営の決定権を奪われ、会社組織はだんだん官僚化していった。そこで独立する決心をした。

 

最初に着手した事業は、オーディオ販売だった。山梨に500坪の土地を購入して、駐車場付きの大型オーディオショップ「ユアーズ」を1970年に開店した。ユアーズを開店してから3年間、事業を安定させるために手を尽くしたが倒産した。ユアーズへの来店客は多かったが、お客様はお店でいい音だけを聴いて機器を選んで、少しでも安い秋葉原で購入していた。倒産した頃、ダイエーが私の店で98000円のオーディオ商品を、仕入れ値より安い60000円ほどで売っていた。これを見た時、一巻の終わりだと思った。この失敗から「販売の仕方に革新的なものがなく、既存のお店と同じ技術で、同じようなものを売っていても駄目だ」という教訓を得た。

 

オーディオ販売で初戦敗退した後、たまたま出席した楽器屋さんの会合にヒントを得た。楽器屋さんのビジネスは、音楽教室の生徒の数によって成り立っている。そこで「音楽教室をやろう」と某メーカーに申し込んだが、山梨県は某楽器店が中心になっていて、卸値は9掛けだと言われた。それならばと中古ピアノの商売を始めた。すぐに全国の調律師に手紙を出して、ピアノを集めて、一斉セールをしたら当たった。

 

その後、1万坪の工場跡地を開発するというプロジェクトに参加した。その頃、偶然に横浜市港南台あたりを通った時、黒山の人だかりができているお店が目に止まった。コミック本がずらりと並んだ立ち読みできる古本屋だった。古本が「1000円」「500円」「100円」と分かりやすく並んでいて、定価の半額程度の古本が飛ぶように売れていた。

 

「よしっ、これだ!」中古ピアノで使った仕組みを古本に当てはめていけば、20〜30店舗くらいは簡単にいけると思った。1990年、35坪の中古書籍販売店を出した。これが「BOOK OFF」1号店である。

 

立ち飲み×星付きレストラン

ブックオフコーポレーションの会長を退任して、2年が過ぎた2009年に、ある人から焼き鳥屋の経営を勧められて、飲食業に入った。当初は「ものすごく難しい業界に入ってしまった」という気分だった。立ち上げた会社の一つのミッションが新規業態開発、そのポイントは、できるだけ息の長い業態をつくるために、人が考えていない事を考え出して、いかに早く飛び付く事ができるかという事だった。

 

超不景気だと言われる時代にもかかわらず、毎日毎晩ものすごく繁盛している業態は、立ち飲みの居酒屋、そして、ミシュランガイドの星付きレストラン。この社会現象に気付いた事が、最初の一歩だった。そこで閃いたのが「この2つをくっつけてしまえ!」だった。そして、誕生したのが「俺の◯◯」シリーズ。両方の勝ちパターンをくっつけているから、爆発しない訳がない。

 

回転数を高めれば赤字にならない

ビジネスを組み立てる時に、心の中でいつも繰り返し考えている事は「競争優位性」である。これを差別化要因として、参入障壁を高く維持するのだ。新規業態に、立ち飲み居酒屋とミシュラン星付きシェフを合体させると決めた時、電卓を叩くと驚く結果が出た。お客様の回転数が上がれば、原価率60%の方が利益を出しやすいというのだ。ポイントは回転数。これは大きな差別化になる。店の回転数が高ければ、コスト的にかなり乱暴な事をやっても店の経営は安全だというのがわかった。

 

新業態でイメージした客層は、「丸の内で働く30代の女性3人連れで、肉料理をガンガン食べて、白ワインと赤ワイン、ボトル1本ずつじゃぶじゃぶ飲んで『明日も仕事がんばろう』と思って頂ける・・・」そんな人達で一杯の立ち飲みの店だった。

 

原価率を高めて回転数を上げるためには人口の多い、集客できる立地でなくてはいけない。条件のキーワードは「20坪」「1階」。新橋に偶然、1階の物件の紹介を受けた。そうして、2011年9月、新橋に「俺のイタリアン」がオープンした。その後、店舗展開をしていくが、15〜20坪程度で、いずれも1日3回転以上していて、月商1200〜1900万円という繁盛店となった。

 

料理人の不満を解消するのが鍵だった

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の重大な要素の一つは、3万円のフルコース料理をつくっていたシェフに、「客単価3000円の料理をつくって下さい」とお願いして、「はい」と言わせる事にある。これはかなり難しい事だった。

 

面接で、大抵の料理人は「海外で修業して得た技術、料理をお客様に提供したい」と言う。例えば、ホテルのレストランなら、年に数回しかメニューが変わらない。それでは、料理人としてのアイデアや技術を磨く場所がないのと同然ではないか。たくさんの料理人と面接して「飲食店にとって大切なのは、料理人に裁量権を与える事だ」と気付いた。これこそ、大企業には真似できない、後発の飲食業だからこそできる考え方である。

 

コストパフォーマンスが大切

飲食店の勝ち負けの要因は、差別化のポイントがあるかないか。飲食業における差別化とは「コストパフォーマンス」という事に尽きる。わが社では、縦軸に回転数、横軸に原価率という図表がバイブル的な存在になっている。業態を組み立てる時、この後は、その地域にはどんなお客様のニーズがあるか、そこだけを見破るだけである。

 

わが社は現在、銀座8丁目に集中して出店していく方針をとっている。銀座の定義は「一流の人しか集まらない、一流の店だけしか集まらない」というもの。過酷な競争の中で、さらに自社間競争を行い、全部の店をどんどんいい店にしていく事が大切である。

参考文献・紹介書籍