石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門

発刊
2014年9月19日
ページ数
254ページ
読了目安
274分
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エネルギーのことについて知ろう
商社でエネルギー部門に40年以上携わってきた著者が、石油やシェールガスなどのエネルギーに関する基本的な事を解説している一冊。シェール革命の起源から、増え続ける埋蔵量の仕組み、日本のエネルギー問題などを紹介しています。

増え続ける埋蔵量

「資源量」とは、地中に存在するすべての炭化水素量の事で、不確実性の高い順に「未発見資源量」「推定資源量」「原始資源量」と呼ぶ。EIAが発表しているものは、「原始資源量」の内「技術的に回収可能な資源量」である。これがどの程度、経済性を持って実際に生産できるかは現時点ではわからない。

 

一方、「埋蔵量」とは、この「技術的に回収可能な資源量」の内、通常の方法で経済的な採掘が可能なものを言い、回収可能性の度合いに応じて「確認埋蔵量」「推定埋蔵量」「予想埋蔵量」という。一般的には90%以上の回収可能性がある場合を「確認埋蔵量」、50%以上の場合を「推定埋蔵量」、10%以上の場合を「予想埋蔵量」と呼ぶ。通常、「埋蔵量」と言う時、それは「確認埋蔵量」を指し、ほぼ全量を経済性をもって生産する事が可能である。

 

現存埋蔵量を生産量で除した数値を「R/P Ratio(可採年数)」という。今ではその数値が50年強になっている。シェールガス、シェールオイルのように、経済的に生産する事が困難だったものが、価格の上昇と技術革新によって、経済的に生産されるようになっている。これは間違いなく「埋蔵量」の増加につながっている。当時は、経済性がないと判断して開発に移行しなかったガス田を、価格水準が上がった昨今、最新の技術を利用して開発・生産しているところも多い。

また、二次回収、三次回収などにより回収率が向上し、当初の確認埋蔵量以上の生産を実現しているケースも多い。例えば回収率が20%から40%に改善されると、埋蔵量は2倍になる。埋蔵量は過去の歴史を見ても、技術の進歩と価格の高騰によって徐々に「成長」しているように見えるのだ。

 

増え続けるLNGの輸入

2010年まで日本の貿易収支は黒字だったが、2013年には約11.5兆円の赤字になった。東日本大震災以降、発電用燃料の約30%を占めていた原子力が使えない事になり、電力会社は代替燃料の大半をLNGスポットカーゴを臨時に買ってまかなわざるをえなくなった。このLNGスポット輸入が貿易赤字の主因だという。

 

LNGとは、消費市場から遠く離れたところで生産される天然ガスを商業化するために、液化した天然ガスである。常温では気体の天然ガスをマイナス162度で液化して体積を約1/600にし、専用タンカーで運ぶ。

日本のLNGの輸入量は増えているだけでなく、価格が他の国が買っているものより高いと話題になっている。LNGは通常20年間ほどの長期契約で購入している。だが、今回のように臨時で追加のガスが必要な時は、スポット契約といって、長期の契約に基づかない、その時だけの当座の取引で買わざるをえない。スポット契約の場合、価格を含め諸条件は、その時の需給状況によって決まる。

 

日本の輸入ガスはなぜ高いのか?

日本の2013年LNG輸入量は、世界全体のLNG取引の約37%を占めている。日本は天然ガスの生産地から遠く離れているため、パイプラインでの輸入が考えられないためである。日本ではLNGは原油の代替燃料だったため、価格を原油価格にリンクさせた。一方、欧州は競合燃料である重油や軽油価格にリンクしており、アメリカは純粋に国内需給要因で価格が決まる。原油価格高騰により、日本向けが高い状況になっている。

 

日本の多くの人々がアメリカ産のLNG輸入開始に大きな期待を寄せている。アメリカ産LNG輸入が開始される事で得られるメリットは、単に安いだけではなく、今までとは違うコンセプトに基づくLNGが買えるという事にある。今までのLNG長期契約の中の不利な契約条件を、契約更改時に変更する交渉材料となり、新規契約では、最初から有利な条件を勝ち取れる可能性を示しているのだ。

 

シェール革命

アメリカの起業家魂は、今も昔も石油開発業界の「ワイルドキャッター」(小規模独立系石油開発業者)達が共有しているものだ。「シェール革命の父」と言われるジョージ・ミッチェルもワイルドキャッターの1人だった。ジョージは、一切の公教育を受けていないため字も読めなかったギリシア移民の子として生まれ、テキサスA&M大学で地質学と石油工学を学んだ。超一流の石油会社アモコに入社し、戦後起業した。紆余曲折の後、石油開発事業で成功し、晩年になって執拗にシェールガスの経済的生産に挑み、1998年、水圧破砕法によって技術的ブレークスルーをなした。

 

アメリカには、シェール革命が起こる好環境が存在していた。

①起業家魂
②鉱業権は政府ではなく土地所有者のもの
③パイプライン網
④資機材、人材、技術力
⑤周辺サービス産業

アメリカは長い間、世界最大の産油国であった。だが戦後、国内需要は急増し、1948年には純輸入国になってしまった。そのため、政府は原油・天然ガスの埋蔵量追加確保、新技術の導入による新エネルギー源確保のために、優遇税制等の政策を行ってきた。

 

ジョージ・ミッチェル達は、当初この財政支援を得て、シェール層に眠る天然ガスを経済的に生産する事を試みた。ジョージと技術陣は、1992年に政府の財政支援がなくなった後も、諦めずに工夫に工夫を重ね、試行錯誤の末に生産技術を確立した。

アメリカ以外の各国におけるシェール開発は、種々課題が山積みされており、まだまだ時間がかかりそうである。逆に言えば、シェール革命はアメリカの持つ底力を証明しうる。アメリカは今後ますます国力を増していく。安価なシェールガス、シェールオイルがアメリカのエネルギー自給率を高め、さらなる技術革新をもリードする活力を生み出すからだ。

参考文献・紹介書籍