レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換

発刊
2023年9月26日
ページ数
464ページ
読了目安
701分
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これからの人類が目指すべき社会のあり方
環境を犠牲にしてきた「工業の時代」によって、様々な気候変動で苦しむ人類はどのような社会、政治、経済へと転換する必要があるのか。
時代を生き抜くためのキーワードとして挙げられる「レジリエンス」をベースに、これからの社会のあり方を示し、人類が考え方を大転換するための処方箋が書かれています。

進歩の時代からレジリエンスの時代へ

ウイルスが次々に現れる。気候は温暖化を続ける。そして、地球は刻々と再野生化している。私たちは長い間、自然界をヒトという種に無理やり適応させることができると考えてきた。それが今や、ヒトの方が予測不可能な自然界に適応せざるを得ない運命に直面している。

世界中で猛威を振るい、経済と生態系を損ねている洪水や旱魃、森林火災、ハリケーンはすべて人間のせいだ。人間を原因とする気候変動が、地球上の生命を六度目の大量絶滅へと向かわせているという警告は、今や定説となった。

 

「進歩の時代」は事実上過ぎ去り、私たち人類は何から何まで考え直す必要があるという声が聞こえてきている。そして、「レジリエンス」という言葉が、新しい決まり文句になった。この言葉は、目前に迫った危うい未来を生き抜くキーワードとなりつつある。「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」への大変革は、私たちの種が周囲の世界を認識する方法の、大規模な哲学的・心理的再調整をすでに引き起こしている。この変革の根本にあるのが、私たちの時間的志向と空間的志向の全面的な転換だ。

「進歩の時代」を終始導いてきた根本的な時間的志向は「効率」だった。即ち、天然資源の収奪と消費と廃棄を最適化し、それによってより速く、より短い時間で、社会の物質的豊かさを増すことの追求だ。但し、それには自然そのものを枯渇させるという犠牲が伴った。個人の時間的志向と社会のテンポは、効率の追求という責務を軸にしている。それによって私たちは地球を支配する種として君臨するに至ったものの、今やそれが自然界の破壊の元凶と化している。

時間に関して、「進歩の時代」が効率と足並みを揃えて進んできたのに対し、「レジリエンスの時代」は適応力と歩調を合わせる。効率という時間的志向から適応力へと乗り換えれば、私たちの種は、自然界からの分離と搾取から、地球を活気づける多くの環境の力との再融合へと回帰することができる。

 

この再編は、経済生活と社会生活の営み方や、その測定・評価法にまつわる他の根深い思い込みに対して、すでに影響を及ぼしている。効率から適応力への転換は、生産性から再生性へ、成長から繁栄へ、所有からアクセスへ、売り手と買い手の市場からプロバイダーとユーザーのネットワークへ、中央集中型から分散型のバリューチェーンへ、グローバル化からグローカル化へといった様々な転換に代表される劇的な変化を伴う。

 

今、出現しつつある経済のパラダイムでは、21世紀後半以降「レジリエンスの時代」が本格化するにつれて、「工業の時代」の核心だった「金融資本」は「生態系資本」が呼び水となる新しい経済秩序に取って代わられる可能性が高い。

新しい時間の捉え方の浸透は、空間の捉え方の根本的な改変と並行して進む。「進歩の時代」には、空間は受動的な天然資源を意味し、統治は自然を財産として管理することと同義になった。だが「レジリエンスの時代」の空間は、この惑星の様々な圏から構成される。それらが相互作用して、進化する地球のプロセスやパターンやフローを確立しているからだ。

 

レジリエンスの時代

・バイオリージョン統治の台頭

気象災害は各統治区域の範囲を超え、丸ごと1つのエコリージョン(生態地域)に影響を及ぼす。旧来の政治的境界は役に立たず、解決策を探す邪魔にさえなることがあるという現実に私たちは目覚めつつある。私たちの政治的なアイデンティティや帰属や忠誠は、自分の住むエコリージョンの環境の健全性にかかっているという新たな認識は、今後深まり発展する。

気候変動の影響は、エコリージョンごとに違う。だから、旧来の政治的な境界を拡張し、少なくとも部分的には、同じエコリージョンを共有する近隣地域やコミュニティが共同で保全・管理できるようにすることになる。

 

・代議制民主政治が分散型ピア政治に道を譲る

地方自治体は市民に協力を求め「対等者議会」(ピア主導の能動的な市民議会)に参加して自治体と共に働き、自分たちの生物圏の統治について助言や忠告や提言をしてもらい始めている。こうした市民の議会は、陪審員団のように、より正式で市民社会に深く組み込まれた統治の拡張部分であり、意思決定を水平化し、市民が統治に能動的に関与することを確実にする。この統治の水平化は膨大な数の地域で起こっており、市民関与の根が深まっている。

代議制民主政治は分散型のピア政治に道を譲りつつあり、市民は自らを再編成して、自分たちのバイオリージョンを守るのに伴う難題と機会の両方に向き合っている。

 

気候変動に適応するための努力は、地球に新しい命を吹き込み、私たちの適切なニッチ(生態的地位)を見つける第二の機会を与えてくれるようなレジリエントなインフラを、あらゆる地域やコミュニティが、動員したり展開したりできるかどうかで、成否が決まる可能性が高い。

スマートな第三次産業革命のゼロ・エミッションのインフラは、私たちの種が統治をバイオリージョンや大陸全体に拡張することで、統治の優先順位を考え直す手段となるハードウェアでありソフトウェアだ。そして、ピア議会統治はコミュニティ全体に、そのコモンズに対する共同責任を負わせ、市民の1人1人が自分の暮らすバイオリージョンの保全・管理者となるように権限を与える。

自分たちが立ち、同胞の生き物たちと共に暮らす大地のレベルまで統治を引きずり降ろし、鋭い目と敏感な耳を持って、自分の地元のバイオリージョンの保全・管理を行うことが、私たちの種としての将来を確保しつつ、これまで地球に加えてきた暴力の償いをする唯一の実行可能な方法である。