なぜ今、デザイン・シンキングなのか
新しい商品やサービスの創造を狙い、ソニーやヤフー、日立製作所など国内の大手企業が注目している手法が「デザイン・シンキング」だ。優秀なデザイナーやクリエイティブな経営者の思考法をまねる事で、新しい発想を生み出そうとする手法である。ビジネスに活用すればイノベーションを起こせるのではと期待されている。
デザイン・シンキングはIDEOの動きとして約10年前から国内でも提唱されてきた。それが2013年になって各社が注目し始め、続々と成功事例が出てきた。
なぜ、今、デザイン・シンキングなのか。それは今までのやり方では新しい発想を生み出す事に各社が限界を感じているからだ。今までは主に技術やマーケットの動向から、新しい商品やサービスを考えるケースが多かったに違いない。確かに既存の市場なら予測しやすいかもしれないが、従来の延長線上の発想しか出てこない。
これに対し、デザイン・シンキングは優秀なデザイナー達の思考法をベースにしているため、今までとは異なる新しい発想につながる可能性が高くなる。デザイン・シンキングは発想の起点が全く異なる。デザイナー達が重視するのは、生活者である人間の姿だ。
人間を中心にして発想する
生活者がどんな行動を取り、どんな考え方をするか、どんな感情を示すか、などを詳細に観察し、時にはインタビューする事で何を求められるのかを把握する事が発想の起点になる。ニーズが理解できれば、簡単なスケッチを描いて示し、ニーズと合致するかを検証するデザイナーもいる。求められているものが明確になるまで、こうした作業を行きつ戻りつしながら、何度も繰り返す場合もある。
現状を分析・理解してアイデアを考え、プロトタイプを作って検証して再度、現状を分析したり考えたりする、といった思考法を優秀なデザイナーらは「頭の中」で無意識に行っている。こうした優秀なデザイナーの思考法はまねる事ができる。
優秀なデザイナーに近づく方法論
デザイン・シンキングでは、まずは生活者の状況を理解するため、現場の動きを詳細に観察する「フィールド観察」を行ったり、インタビューを実施したりする事が起点だ。わかった事実を基に議論して多くの意見を出し、その後は意見を収束させて、課題を浮き彫りにしていく。こうした「議論の発散」や「議論の収束」は、デザイン・シンキングの様々な場面で必要になる。
さらに課題の解決に向けてブレインストーミングの手法などでアイデアを出していく。解決策をまとめていき、試作品の開発に移る。最初は紙でもいいからすぐに試作品を作り、イメージを確認する事が重要だ。生活者に試作品を見せるなどして試作品を検証し、不具合があれば再度試作品を作ったり、解決策を検討したりする。こうしたサイクルを何度も繰り返す事で、次第に完成へと近づいていく。
「共創」を推進する
デザイン・シンキングを推進する企業に共通するキーワードが「共創」だ。社内の各部門はもちろん、社外の顧客やパートナーなども一緒となって議論を深め、問題の本質まで踏み込む事で、本当の解決策を導き出す。その結果、今までにないニーズや気づきが浮かび上がり、新しい製品やサービス、提案にも結びつく。デザイン・シンキングでは「理解」「発想」「試作」を素早く行うが、共創はこれらの過程を支援したり促進したりする。
共創を推進するため、各社が重視しているのがワークショップの開催である。そして、参加者の本音を引き出し意見をまとめ、ある方向に集約させるのがデザイナーの新たな役割になる。社内外のばらばらな参加者をデザインという共通言語で結び付ける、いわば「接着剤」といった存在になるのかもしれない。