影響力のレッスン 「イエス」と言われる人になる

発刊
2023年9月5日
ページ数
360ページ
読了目安
557分
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人に影響を与えるための科学的な方法
人がどのように物事を判断するのかという行動経済学の知見をもとに、人に影響力を与えるにはどのようにすればいいのかを解説している一冊。

人はどのように物事を判断しているのか、物事を判断する際に気をつけるべきことや、人を動かすためのツールなど、日常の中で役に立つ知見がまとめられています。

ほとんどのことは直感的に判断している

行動経済学がもたらした大きな成果の1つが、認知の二重過程理論で、「システム1」および「システム2」という2つのプロセスで構成される。意思決定の大半は習慣的なもので、比較的容易である。これがシステム1である。システム1は大抵、ワニのように気づかれることなく意識下に潜んで、脅威やチャンスがないかと周囲を窺っている。本能と習慣を原動力に、即座に行動を起こせるよう、常に備えている。これに対してシステム2は、意識的かつ合理的なプロセスである。1件1件の訴訟に丁寧に向き合い、当事者の言い分に耳を傾け、証拠を慎重に吟味する裁判官のようなものである。このシステムが機能するには集中が必要で、限られた認知資源の浪費を防ぐため、システム2の使用は可能な限り回避される。

 

システム1を「ワニ」、システム2を「裁判官」と呼ぶことにする。ワニは注意をほぼ必要としない、素早い認知プロセス全般を担当している。熟慮に値しない場合やそれが不可能な時には、決断は感情や習慣、好み、本能的直感、あるいは意思決定を簡略化する様々な精神的プロセスのようなワニの領分に委ねられる。一方、重大な決断をする必要があり、じっくりと考える余裕がある場合には、ワニと裁判官の両方からのフィードバックを勘案する。

人が判断する場合には、ワニが先に反応する。これは常に変わらない。一方、裁判官は遅れて判断を修正する役割を担う。これは常にではなく、課題が相当に重要で難しく、なおかつ認知資源に余裕がある時に限られる。ワニは裁判官から情報のインプットがなくても決断できるが、裁判官はワニからのインプットがなければ決断できない。この非対称性が影響力を行使するためのキーポイントの1つとなる。

 

瞬時の情動反応は、私たちの判断を大きく揺るがす。これは特に他人を評価する時に顕著である。私たちはごくわずかな経験(薄切り)から個人的な印象を形成する。これはワニが極めて重要な役割を担っていることを明確に示す。ワニは瞬時に判断を下し、一度決めた判断を翻そうとしない。じっくりと考える時間を与えても、薄切りに基づく社会的な予測の正確性が向上しないことは、多くの研究によって示されている。

誰に投票するか、訴訟を起こすかどうか、といった重要な決断を、私たちはほぼ直感的な反応に基づいて行っている。したがって、他人の行動を理解し、予測し、それに影響を及ぼすためには、まず相手のワニが下す瞬時の判断に働きかけなくてはならない。

 

人を動かすためにはワニに働きかける

意識的な努力で直感的な反応を変えることはできない。そもそも、ワニは裁判官が疲れた時に仕事を引き継ぐだけでなく、裁判官が扱う事件と証拠を決定している。裁判官に届く証拠は既にワニの「注意」と「動機」という2つのフィルターをくぐり抜けたものなのである。

ワニは私たちが情報を収集する方法に影響を及ぼして、情報をふるい分けている。中でも特に重要なふるい分けが、確証バイアスである。私たちは無意識に自分の信じていることや信じたいこと、あるいは予期していることを裏付ける情報を探している。

私たちの意識的な気づきへ送られてくる情報には、既にバイアスがかかっている。実は、裁判官の情報処理にもバイアスがかかることがわかっている。というのも、推理そのものが影響を免れないプロセスの1つだからである。

 

ワニと裁判官の関係性についての科学論文は、頭を切り替えて、人を動かすための努力を何よりもまずワニに向けるべきだと、私たちに強く訴えている。

 

フレームの力

フレーミングは、現実の世界でかけることのできる魔法である。何かについて説明したり、名前をつけたりするだけで、フレームを創り出せる。的確に選ばれたフレームには、何が適切か、何が重要か、何が好ましいかを決定する力がある。相手の経験をガッチリとフレーミングできれば、その出来事に対する彼らの解釈はもちろん、期待までも形づくることができる。

 

設定できるフレームは無数に存在するが、特に有用なものが3種類ある。

 

①モニュメンタル

このフレームは重要性や規模や範囲の大きさ、チャンスを逃すことへの不安、あるいはそれら全部によって、人々の意欲をかき立てる。

 

②対処しやすさ

モニュメンタルのフレームは、人々の意欲をかき立てて行動を促すが、問題によっては元々大きすぎる、手強すぎると感じられるものもある。そのような場合は、反対に対処しやすさのフレーミングが効果的かもしれない。モニュメンタルのフレームは「理由」を強調し、対処しやすさのフレームは「方法」を強調する。

 

③不可思議さ

不可思議さが効果的なのは、推測のプロセスを妨害し、予想を不可能にするためである。不可思議さのフレームは、新たな脅威、新たな機会などの魅惑のワードで、変化や不確かさを提示することによって、ワニに直接訴えかける。

 

3つの強力なフレームは、組み合わせることでも効果を発揮する。1つに絞る必要はない。

 

参考文献・紹介書籍