パーパス+利益のマネジメント

発刊
2023年7月5日
ページ数
296ページ
読了目安
378分
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推薦者

企業のパーパスと利益を両立させるための方法
ESG投資の世界的権威が「企業は社会問題に取り組むことで業績が向上する」という研究を示しながら、企業のパーパスと利潤追求の調和をはかる方法を紹介している一冊。

なぜ今、企業がパーパスを重視する必要があるのか、社会的なトレンドを解説。これからの企業は社会問題に取り組み、パーパスで差別化することこそが、優れた業績を上げることになると示しています。
企業のESGへの取り組みを成功させるためのヒントになることが書かれています。

何のためにビジネスをするのか

社会的目標を目指すことと営利の追求とが、かつてないほど一致するようになってきている。ESGの必須項目で実績値を改善してきたパーパス主導型の企業は、競合他社より年3%以上も高い株式リターンを毎年達成している。

パーパス主導型企業は業績が向上するのだ。その理由の一端は、サステナビリティ要素を事業の牽引役として活用する素晴らしい方法がいくつもあるからであり、また別の理由として、こうしたテーマを重視する企業では同じ価値観の社員が奮起し、より熱心に働くようになるからだ。

 

これを理解するには、結局は次のシンプルな問いかけに行き着く。

「人は何のために仕事をするのか?」

 

ほとんどの人にとって、何のために仕事をするのかという問題は、利潤の最大化だけで説明できることではない。かつて、スティーブ・ジョブズは次のように述べた。

「心から満足する唯一の方法は、素晴らしいと思える仕事をすることだ。そして、素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することだ」

まさにこれこそ、パーパス主導が大切な理由であり、企業の役割がただのビジネスを超えるものでなければならない理由である。

 

パーパスが企業に見返りをもたらす4つの社会的トレンド

①選択肢の増加

今の消費者は自分だけの独特なニーズにぴたりと合う商品を選ぶことができる。どのような分野の商品だろうと、デザインや趣向、社会的意識や環境持続性といったESGの中核的問題であろうとも、自分の好みを反映させることができる。

選択肢が劇的に増えているのは、消費者にとってだけでなく、労働者にとっても同じである。人々は自分と同じものを大事にしている雇い主のもとで働きたいと願っている。

 

②企業行動に関する透明性の向上

選択肢の増加の主な原動力は、企業行動に関する信頼に足る情報が増えたことと、そうした情報の透明性が増したことだ。NPOのBラボは、環境や社会への配慮として最も厳しい基準を満たしている企業に「Bコープ」という認証を与えている。

 

③社員および消費者としての意思表示の機会の増加

消費者や社員による意思表示として「アクティビズム」(社会に訴える積極的な行動)が激増している。労働者の要求内容は、自分自身の労働環境の改善だけではなく、勤め先企業が他の人々やこの世界をいかに扱うのかという点に変わってきている。

 

④物的資源と比較した価値観の重要性の増加

今の資本市場では人々が昔よりはるかに重要になっている。かつて、企業の価値は物的資本と生産能力で概ね決まった。今、企業の成功を左右するのは「人」である。社員の質と顧客との関係で決まる。今や企業は、社員や顧客に寄り添わねばならない。

 

パーパスは真の差別化となる

組織としてパーパスを持つことは最終的に事業にとってプラスになる。だが、パーパスを持つというのは、幹部の素晴らしいスピーチとかウェブサイトのミッションステートメントだけでは達成できない。パーパスを組織全体に浸透させ、社員の動機付けや報酬制度、採用過程、顧客経験などにもそれが反映されなければならない。

 

調査では、職位の低い社員ほど組織のパーパスを信じていないことが明らかになった。加えて、社員が仕事に意義とパーパスを強く感じており、経営幹部からもそのパーパスが明快に伝わってくる(わかりやすい説明や言動の一致、中間管理職への浸透など)時、組織の業績は向上する。

調査で示されたのは中間管理職の重要性だ。戦略とビジョンを実行に移すのはまさに彼らだからである。中間管理職のパーパス意識が高い企業は、財務数値の見通しも良く、株価も高かった。

 

パーパスと利益を調和させるための方法

企業はサステナビリティ・イノベーションの達成までに3つの段階を経る。

  1. コンプライアンスとしてのESG:まずい事態を避けるためのチェックリストとしてのESG
  2. 効率的なESG:既存の経営資源の振り向け先を変えるだけで、いいとこ取りができるESG
  3. イノベーションとしてのESG:会社全体を根本的に変えるESG

 

第3段階まで到達するためには、研究から次の5段階のフレームワークが明らかになった。

 

①戦略的なESG行動を見つけ出し、社内に導入する

競合より先に自分の業界にとって重要なエンジンが何かを見分ける。

 

②適切なESG目標を掲げ、結果責任を負わせる仕組みを構築する

仕組みを機能させ、その状態を維持するには、トップダウンとボトムアップという組織の上下双方向からの圧力が必要である。優れたESG実績を持つ要因は「取締役会の関与」と「幹部報酬とサステナビリティ実績との連動」である。

 

③パーパスを中心に置く企業文化を育てる

トップ層が本気であると社員に思ってもらえなかったり、社員の熱意をどこに向けるべきか明確な方向性を示せなかったりすると、取り組みは失敗する。

 

④ESG目標がうまくいくように業務慣行を適切なものに変える

あらゆる行動にサステナビリティを組み込むための仕組みが必要だ。信頼はその中核にある。

 

⑤投資家と世界に向けて効果的に伝える

サステナビリティのプラス効果は、結果が出るまでに長い時間がかかる場合もある。短期主義に負けないよう、長期目標について語る必要がある。