「生きている」とはどういうことか 生命の境界領域に挑む科学者たち

発刊
2023年7月4日
ページ数
416ページ
読了目安
675分
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生命の謎を解くための様々な視点
生命の起源、ウイルス、生命研究の歴史などの取材をもとに、「生命とは何か」という定義をめぐる難問について様々な角度から視点を当てる一冊。

研究者たちが、人口的に生命を生み出そうとしてきた歴史などから、生命の謎を解こうとする研究まで、生命とは何かを考えさせられます。

生命の境界にまたがるもの

生命の定義を探し求める生物学者にとって、ウイルスは頭痛の種となった。ウイルスを生命から完全に除外することはできなかった。ウイルスは明らかに生命の特徴をいくつか持っていたからだ。それでも欠けている特徴もあった。

ウイルスは、タンパク質の殻と脂質の膜の内側に、遺伝子のかたまりと遺伝子をまとめるためのタンパク質を持っている。だが、それ自身の内に化学反応の燃料となるATP(アデノシン三リン酸)は一切持っていない。外側には、糖をまぶしたタンパク質を、ふわふわのコートのようにまとっている。このタンパク質は通常、宿主の細胞の表面にあるタンパク質にぴったり組み合わる。この結合がウイルス感染の第1歩であり、鍵穴にはまる鍵のようにぴったり合わなければならない。

一度ウイルスが細胞に入ると、殻や膜が破れ、遺伝子という積み荷を届ける。遺伝子の複製が生命の要なら、ウイルスは確かに生きているものと見なすべきだ。感染した細胞は、ウイルスのDNAを読み取ってRNA分子を作ることになる。すると細胞は、そのRNA分子からウイルスのタンパク質を合成するようになってしまう。

 

ウイルスは驚くほど少ない数の遺伝子で暮らしていける。私たちヒトは、タンパク質をコードする遺伝子を2万個持っているが、SARS -COV-2はたった29個である。ウイルスは、一般的な形態の生命と同じく変異するが、ヒトや植物、細菌よりもはるかに速く変異する。つまり、ウイルスは「進化」という生命の特徴を持つ。

ウイルスは辺りにものすごくひしめいている。1リットルの海水には、地球の全人類よりも多くのウイルスが存在する。ウイルスの多様性もまた桁外れだ。この惑星には何兆種もウイルスが存在する可能性があると見積もっているウイルス学者もいる。

これほど生物学的な多様性を、生命から閉め出していいのだろうか。私たちの健康な体は、ヴァイローム(ウイルス叢)と総称される何兆ものウイルスの棲みかになっている。そのほとんどは、何兆もの細菌や菌類など、私たちのマイクロバイオーム(微生物叢)を構成する単細胞生物に感染する。地球も地球科学的な影響を及ぼすヴァイロームを持っている。瞬きする間に、海にいる1兆の百億倍もの数のファージが海洋細菌に感染している。その多くは宿主の細菌を殺し、毎年約30億トンの有機炭素を水中へ放出しているが、それが新しい生命の成長を促している。

私たち自身のゲノムにもウイルスの断片が数万個含まれており、全部合わせるとDNAの8%になる。そうした断片の中には、遺伝子や遺伝子をオンオフの状態にするスイッチへと進化したものもある。ウイルスが命なきものだとすると、命なきものが私たちの存在に縫い込まれていることになる。

 

ミトコンドリアもまた半生命の形態であることがわかっている。1個のミトコンドリアには、37個の遺伝子と、遺伝子からタンパク質を作るのに用いるリボソームを持っている。そして時々細菌のように増殖する。ミトコンドリアの祖先は、自由生活性の細菌だった。それがより大きな細胞に呑み込まれ、2つの種は協力関係を築いた。ATPを提供するのと引き換えに、ミトコンドリアはシェルターを獲得したのだ。もはや自力で生き延びる必要がなくなったミトコンドリアは、遺伝子の大半を失った。だがすべてを失ったわけではない。それに細菌の祖先のように分裂する能力も失っていない。

ミトコンドリアは宿主細胞の外では存続できない。自分の食料を探すことができないのだ。自力で遺伝子やタンパク質を作ることもできない。しかし、それを死んでいると言うのは、正しいようには思えない。私たち自身の生命はミトコンドリアに依存しているためである。

 

ミトコンドリアの祖先はありふれた海洋細菌で、それがたまたま私たちの単細胞の祖先に呑み込まれ、20億年にわたる衰退をたどった。ウイルスさえ、元をたどれば通常の生物の中で生まれた寄生DNAというならず者の断片だったということもままある。

しかし、もっと前、40億年前辺りまで遡れば、すべてが半生命となり、さらに遡れば生命は全くいなくなる。

 

 

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