「伝えるべきこと」を明確にする
「伝え方」に正解はないが、原則はある。それは「いいメッセージがあるから、いい伝え方ができる」というもの。「伝えるために表現されるもの」には、必ず元となる「伝えるべきメッセージ」がある。そこに魅力があるからこそ、それを表現したものが魅力的になる。
何かを伝えて、納得したり、共感したりしてもらいたいなら、何よりもまず「メッセージ」を納得したり、共感したりできるものにする必要がある。
伝わる文章にならない最大の原因は、「伝えるべきことを一言で言えない」ことにある。書き手が「伝えるべきこと」を明確に意識できていると、何を書くべきか、どう書くべきかといった判断がつきやすく、必要な情報を見極めることができるようになる。書き手が「なんとなく」しかわかっていないことは、言葉をつくしても「なんとなく」としか伝わらない。
「伝えたいこと」を伝えても、伝わらない
そもそも、私たちは、伝え手の「伝えたいこと」が、受け手にすんなり受け入れられづらい構造の中で、コミュニケーションをしている。伝えるコミュニケーションはすべて、次の2段階のプロセスを経ている。
- 伝え手が伝える事柄を表現する
- 受け手がそれを見聞きする
この受け手が見聞きするプロセスは、伝え手が強制することはできない。受け手がある程度の時間や労力、注意力などを割いて、見聞きしてくれなければ、納得はおろか理解にもたどり着くことはできない。
つまり、受け手が受け入れるのは、伝え手が「伝えたいこと」ではなく、自分が「伝えられたいこと」ということである。「伝わる」ようにしたいなら、一言で言い表す時点で、相手が納得して、共感するような「伝えられたいこと」へと「伝えたいこと」を変換しておく必要がある。
この変換のポイントは、受け手が「自分ごと」と感じられるようにすることにある。この伝え手の「伝えたいこと」を受け手を引きつける魅力へと変換する「一言」を、メッセージと呼ぶ。「伝える」の本質はメッセージにある。
受け手にとって価値があるメッセージに変換する
私たちは情報を品定めする際、「自分にとって必要性があると感じるか」というものさしを大切にする。自分にとっての必要性と密接につながっている「メッセージ」に、受け手は魅力を感じる。
この魅力は「よさ + わけ」の組み合わせによって表現される。「よさ」だけでは必要性が見えづらく、人の気持ちを引きつけるところまでたどり着きづらい。「よさ」が実現される「わけ」までを含めてはじめて、必要性を感じることができる。
これを形式として表すと「〇〇だから、〇〇だ」となる。
メッセージは一言であることが重要だが、1行でなくても構わない。大切なのは、言葉の物理的な長さではなく、端的に魅力をいい当てることである。
魅力を考える上では、「魅力は受け取る人によって異なる」ということを気をつける必要がある。相手が違えば、必要性が違ってくる。ものごとの意味や価値は、何かと関係づけられてはじめて解釈されるものである。ここには「編集」という営みが関係する。ものごとの意味や価値は、コンテクストを操る、編集によって生み出される。
何かを伝える時には、伝える相手との関係性を重視する必要がある。受け手との関係性の中で「伝えたいこと」を価値化して「伝えられたいこと」に変換する。そのためにも「誰に向けて伝えるか」をはっきりさせることが重要になる。
伝わるメッセージの見つけ方
①メッセージの「要素メモ」を作成する
- 伝えたいこと:伝え手が伝えたいと思っていることやもの
- 伝える相手:伝え手が伝えないことを伝えたい相手
- 困りごと:わけで解決される課題や悩み
- よさ:伝えたいことを伝える相手の目線で解釈した意味やメリット
- わけ:よさが提供される道筋や道理
メッセージを考案する前に、まず5つの要素を整理する。
②「思考の型」に沿ってメッセージを導き出す
- 伝える相手が、日常で持っている困りごとを、本人の目線で生活をイメージしながら探す
- 困りごとを見つけたら、それが伝えたいことによって解決されないかと考えてみる
- もし解決されそうであれば、解決されてどうなるのかという結果=よさを突き詰める
- なぜそうなるのかという、わけを考える
- 導き出したメッセージが「そうかも!」と言えるものか吟味する
この5つのプロセスを何度もたどりながら、これだという者が見つかるまで粘り強く考える。