CFO思考 日本企業最大の「欠落」とその処方箋

発刊
2023年6月7日
ページ数
350ページ
読了目安
446分
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企業価値を向上させるCFOの考え方
企業の中で財務や経理から投資家対応まで幅広い役割を担うCFO(最高財務責任者)の仕事内容や考え方を紹介している一冊。
日本企業の経理・財務担当役員の多くにありがちな金庫番的な考え方を、経営者としてファイナンス面から企業価値を向上させる考え方に変えることこそが重要である説いています。

CFOが担う責任領域において、それぞれどのようなアプローチをすれば、企業価値の向上につながるのかというポイントが書かれており、企業のコーポレート部門に携わる人にとって参考になります。

投資家の期待リターンを超えることが責務

日本企業の資金調達においては、資本市場からの資金調達よりも銀行からの借入が主流である時代が長く続いてきた。日本企業の経理・財務担当役員は「金庫番」としての役割を果たすことが期待され、銀行との関係維持に多くの時間を費やし、資本市場との関係は比較的希薄だった。このため、資本市場のプレイヤーである機関投資家と対話することに力点を置く欧米企業のCFOと異なり、資本市場の基本ルールや機関投資家の思考方法、行動様式を学ぶ必要性が希薄だった。

 

まず、投資家の期待リターンである「資本コスト」を知ることが、CFOの第1歩である。日本企業の場合は、おおよそ8%がハードルレートになる。株主から預かった資本に対するリターン(ROE)の拡大を目指す経営者として、株主が期待するリターン(資本コスト)をクリアすることは、最低限の責務である。

 

CFO思考とは

「金庫番思考」とは、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる企業価値保全を第一義とする考え方、「CFO思考」とは、冷徹な計算と非合理なまでの熱意を併せ持ち、企業価値向上を自らの責務と考える思考法を指す。

 

「経理」や「税務」などの仕事は、静的でルーティンワーク中心、決められたルールに従って数字を扱う地味な仕事と思われがちである。しかし、こうした「金庫番」としての定番業務においても、様々な工夫の余地がある。「実現したいことに対する非合理なまでの期待と熱意」、即ちアニマルスピリッツを持ち、CFO思考を発揮すれば、会社や経済に違った結果をもたらす可能性がある。

 

CFOが関与する責任領域と役割

①経理

会計基準は「ものさし」であり、どう使いこなすかが重要となる。会計基準というルールが決まっていても、解釈論が入り込む余地はある。特に「会計上の見積もり」と呼ばれる領域については、企業側の見解と監査法人側の意見とを擦り合わせることになるが、監査法人と議論することを厭わず、自らが納得した財務諸表でステークホルダーと対話するのがCFO思考である。

 

②予算

「管理会計」の目的は、経営者の意思決定に必要な情報提供を行うことにある。「管理会計」による分析では、事業単位以外にも、サービス別、製品別などにセグメント情報をまとめ、分析することができる。「管理会計」も「ものさし」だが、会計基準がなく、それぞれの会社で創意工夫が自在にできる。CFOは、管理会計を会社全体の方向性や企業戦略に沿った形で常にブラッシュアップしていくことで、その機能発揮が担保される。

 

③税務

税務は、解釈を巡って税務当局と訴訟になったり、海外当局同士で調整を行なったりする、といったこともある複雑な領域である。株主の立場からすると、企業の最終利益である税引後利益を最大化するために、税金を減らすことは、合理的な行動ということになる。「CFO思考」は、税額は管理可能なものであり、税務コンプライアンス遵守の範囲内で税務プランニングを行うことで、税引後利益及びフリー・キャッシュフローを最大化することができると考える。

 

④財務

「財務」は、企業のお金の流れを司る機能である。「出納」や「資金」「為替」などもこの機能に含まれる。また、「借入」「社債発行」「資本調達」といった資金の流入に関する業務や、「運用」「投資」「自社株取得」など資金の社外流出を伴う業務も含まれる。

 

  • 負債に関する財務運営
    「CFO思考」は、外資系金融機関を含む複数の金融機関と親密ながらも緊張感のある関係を維持しつつ、個々の案件ごとに最善のサービスを提供してくれるチームを選ぶ。
  • 資本に関する財務運営
    「CFO思考」では、資金や資本を過度に溜め込むことは「要注意」と捉える。ROEが低下し、投資家の不興を買う可能性が高まるからである。CFOは、投資家の期待や自社の成長の可能性などを複眼的に捉え、「財務健全性確保」「成長投資」「株主還元」の3面から適切な資本配分方針を定め、それを実行する必要がある。

 

⑤IR

IRこそ、CFOの仕事がすべて集約されている。即ち「経理」が作成した財務会計上の数字、「予算」チームがまとめた管理会計による計画の達成状況や中期経営計画上の数字など従来の経理・財務担当役員の守備範囲に関する質問は当然として、サステナビリティ戦略や気候変動への取り組み、経営上のリスク、人的資本経営やコーポレートガバナンスに関する質問、さらに各事業の現状と課題など、ありとあらゆる質問を受けるのがIR、投資家との対話である。

 

グローバル投資家からすれば、もっと時価総額が大きく、成長ストーリーが明確で、ビジネスラインの数がシンプルな欧米や中国あるいはアジアの企業の方が投資対象として考えやすい。日本企業は、それぞれが自社の特徴を精一杯アピールして、「グローバル投資家のレーダーに映る」ことがまず大切である。