異質を巻き込む力

発刊
2014年11月5日
ページ数
197ページ
読了目安
178分
推薦ポイント 4P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

多様な人々とどのように意思疎通を図ればよいのか
多国籍な人とビジネスを行うための心構えを説いた本です。グローバルビジネスを展開している著者が、いかに「異質」な者と一緒に仕事をしていくかを紹介しています。

異質との接点は似て非なるもの

文化の違う相手を理解し、こちらの意図を伝え、交流し、説得・交渉し、さらにチーム、組織のリーダーでやっていくためには、異質との接点のあり方を同質との接点のあり方の延長線上に描くのではなく、似て非なるものとして認識を改める事が必要である。そして、その対応力が同質社会で自然と身に付かないのであれば、意図的に訓練する他ない。

 

多様性は、自分の限界をはるかに超えた事を可能にする。今まで当然だと思っていた自国を、他国の目から見る事で、新たな価値を発見する事もできる。国の枠を超えた活動では、多様性を内包した方が可能性は広がる。各メンバーの強みの合わせ技で、結果としてグループの視点・経験が豊富になる。
多様性は、意思決定の質を確実に上げる。同質な集団においては、対立意見が生じなかったり、空気を読むために同調に傾いたりして、正しい意思決定が下されるべき場面で下されない事が多々ある。企業の致命的な失敗は戦略や組織に起因する問題というよりは、意思決定構造に起因する事がほとんどである。多様性はお互いに「違うこと」が前提となるため、集団で妄信するリスクを減らす。

 

異質へ向かう心構え

海外に出てから目につくのは、日本企業がとても先例を気にする点である。何か新しい事を提案すると「そういう他社事例はありますか」「前例はありますか」と頻繁に聞かれる。そしてこちらが「ありません」と答えると、採択する気なしという空気に変わる。

 

事例がないからという理由でやらなければ、誰1人として新しい道には踏み出せない。日本人の判断基準には「普通がよい」「事例があれば基準ができるが、ないなら基準をつくれない」という特徴がある。

「事例がない事をチャンスとは考えられないか」異質な環境に飛び込むには、この発想が必要である。「事例がない、先人がいない、だったら自分が先行事例になろう」という考え方は異質と交わる前に必要な心構えである。

 

異質への順応

日本人は、日本を出ても日本の常識を基準にする傾向が強い。同質的な日本社会で育つと、常識が違う人との出会いが少なく、「常識というものは脆い前提だ」という事に気付くチャンスが少ない。いい悪いの判断とは別に「何がこの場では常識なのか」という問いは意識する必要がある。

例えば、中国には「騙される方が悪い」という考えがある。商品の横流し、従業員の着服、資産の流用は日常茶飯事であり、そういう事もあるという前提で手を打たなければ、中国で商売をする資格はないという事になる。

 

異質に順応するためには「違い」を自然と受け入れる状態に持っていかなければならない。価値観や文化の違いはストレスを引き起こすが、厳しい場所で生き残るには、修羅場を笑いで乗り切れるタフさが必要である。いろいろな目に遭ってもそれを芸の肥やしにする、飲み会のネタに活用する、そうすれば案外なんとかなる。

 

異質との交流

異質との交流においては、自分の振る舞い、あるいは価値の出し方を状況や周囲の期待に応じて変える事ができると強い。

 

「コンサルタントに大切な3要素。学者・職人・水商売」という名言がある。何でも誰よりも知っているという学者的要素。徹底的に最高の物を仕上げてお客様に提供する職人的要素。それに加えて、相手を観察し、時には人なつっこく、時には厳しくしながら、相手を人間の魅力で動かしていく芸者的要素である。この3要素が揃って、はじめて相手を変える事ができる。

 

周囲の期待に合わせて自分を離れて演じる場合は、周囲はそこに嘘くささを見いだしついてこない。よって、素の自分でいく。但し、素の自分は変える事ができる。周囲の期待と自分の資質にギャップがあるならば、その差を埋める努力をし、それが素の自分を成長させていく。