なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか

発刊
2014年11月25日
ページ数
253ページ
読了目安
259分
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どのようにして大学を改革すれば良いのか
「世界初のマグロの完全養殖」によって知名度を高めた近畿大学の学生獲得戦略が紹介されている本。学生数の獲得が重要な課題となっている時代にあって、なぜ近大は「志願者数1位」になることができたのか。

2018年問題

現在、日本の四年制大学の進学率は50%を超えているという。大学進学者が増えたおかげで、全国の大学は特別な経営努力をしなくてもこれまでは学生がそれなりに集まっていた。しかし、18歳人口は2018年から減少に転じ、2031年までに33万人も減少すると予測されている。778校ある国立・私立大学が限られた若者を奪い合わなければならない時代に突入している。

 

そうした状況の中で、2014年度に実施された私立大学の一般入試では、近大に集まった志願者数が10万5890人に達したという。教育界では、全国の大学の人気や経営状態を表す1つの指標として、入学試験の志願者数に着目している。この数字によって、近大は「全国1位」に躍り出た。4年間連続して1位を獲得していた明治大学は、近大に首位の座を譲る事になった。

 

なぜ、志願者数日本一になったのか

教育界の現実に対応して、近大は実に多彩な施策を積み重ねてきた。目標は「志願者数日本一」を獲得すること。近大はその達成を目指して、女子の比率を高め、「エコ出願」を実現し、オープンキャンパスに来場したすべての受験生とその関係者に、できる限りのホスピタリティを発揮して対応していった。

 

①「キャンパスがきれい」で関西1位
女子獲得戦略の1つとして、統一感のある景観をキャンパス内に作り出した。新設された校舎は、レンガ色の壁面に白い縁取りがアクセントを添える。西洋の教会を連想するような薔薇窓を模した飾りの模様がオシャレである。

女子トイレの広さは男子トイレの倍。美しく磨かれた鏡が壁面を覆い、間接照明が照らし出す、オシャレなパウダールームが広がる。女子トイレの広さ、清潔さ、利便性には「女子を受け入れたい」という大学の意気込みや理念が注ぎ込まれている。

さらに目玉施設として「英語村E3」を創設。施設内での日本語使用はNG。スタッフは全員ネイティブ。建物の中で、飲み物やデザートを注文できる女子好みのカフェ感覚が楽しめるフリースペースになっている。

 

②女子に人気の学部を新設
近大は2010年、新学部を設置した。狙いは「女子の比率を高めること」。その実現に向けて「心理」「社会」といった女子に人気のある学科を含む「総合社会学部」を新設した。その結果、2014年の総合社会学部の女子比率は4割に達した。

総合社会学部に続いて、2011年には建築学部を新設。入試を理系の内容に限定せず、文系でも受験可能にした。インテリアデザイナーやカラーコーディネーターなど、暮らしの空間デザインに関心を持つ女子は多い。

 

③エコ出願
近大は全国で初めて「100%完全ネット出願」を実行に移した。ネット出願が経済の面からも受験生の経費削減に結びつくようにと施策を考え割引を行った。完全ネット化は、約2500万円の経費削減効果をあげ、9000人の志願者を増やした。

 

近大マグロとの相乗効果

近大は多彩な施策と同時に複数の相乗効果によって「志願者数日本一」の座を獲得した。中でも近大の存在を世間に強くアピールしたのは「近大マグロ」だろう。世界で初めて完全養殖を実現したという「近大マグロ」のニュースバリューは、近大の存在を日本中に知らしめた。また「近大マグロ」は、研究分野での実力を世界に向かって発信し、大学としての能力の高さを社会に浸透させていく力になった。

 

近大マグロは「不可能を可能にした実学の象徴」のように扱われた。今や近大「実学」の拠点となった水産研究所を発信元とする計画や数字こそが、他のどの大学も計上できない近大の「大学力」に他ならない。