プロティアンシフト 定年を迎える女性管理職のセカンドキャリア選択

発刊
2023年5月12日
ページ数
192ページ
読了目安
232分
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定年後に女性管理職はどのようなキャリアを選ぶのか
男女雇用機会均等法が施行された後に入社した女性たちが、定年を迎え始める中、これまで男性の問題だった「定年」がより意識されるようになってきている。
女性管理職たちのセカンド・キャリアはどのように構築すれば良いのかを、インタビューを通して、そのヒントを探っている一冊。様々な苦労の中で、活躍してきた女性管理職が定年を迎えた後、どのような道を辿るのか、どのようなことを考えているのかが紹介されています。

今後増える女性の定年問題

長年、企業で働き続けてきた管理職の女性たちが今、定年を迎えようとしている。多くは「男女雇用機会均等法」が施行された1986年前後に入社した均等法第一世代で、現在50代後半から60代前半になる。

「労働力調査」によると、2021年7月時点で45〜54歳の正規雇用の働く女性は307万人、55〜59歳は100万人、60〜64歳は44万人で、彼女たちが働き続ければ今後20年間で451万人の女性たちが「定年」に直面する。かつて「定年」は男性の問題だったが、勤続年数の伸びと共に、定年まで働く女性、定年後も働く女性たちも増え、女性たちも「定年」を意識するようになった。

 

この数十年間で、働く女性を取り巻く職場環境は着実に改善してきた。女性の職域は周辺的労働から基幹職へと拡大し、働くことを人生において重視する女性たちが増えてきている。その中で、女性管理職は男性と同様に責任ある立場で仕事に打ち込んできた。

だが、制度面ではなくなったはずの性的役割分業が、組織の文化や働く人々の意識の根底に存在する中、管理職の女性たちは、人には言えない悩みを抱え続けてきた。形ばかりの制度と周囲の無理解の中、様々な男女差別に向き合いながら、仕事を続けてきた。多くは睡眠時間を削って仕事をハードにこなし、子供を持つ人は周囲への遠慮と子供への負い目を感じながらも仕事と育児との両立を目指した。彼女たちにとって、働くことの人生における意味は小さくはない。

 

女性管理職のキャリア形成

女性管理職のキャリア形成とは、長期間に及ぶ就業経験の中で「働くこと」の意味づけを、自己の人生に欠くことのできないものに昇華させていくプロセスである。入社時には「経済的自立」が働く動機であったものが、働き続ける中で仕事の面白さに気づき、仕事の醍醐味を味わう経験の積み重ねによって、それが働く動機に加わっていく。最終的には仕事が人生に欠くことのできないものになっていく。女性管理職の場合、働き続ける中で、家族や周囲への負い目が多少ある点も忘れてはならない。

 

女性管理職は定年後のキャリア選択の際に、これまでのキャリア形成からたどり着いた「自分のやりたいことを優先する」ことで得た「納得感」を「心理的成功」につなげている。これまでのキャリア形成の中で、数少ない女性管理職として、男性中心社会の中、言わばアウェーで戦ってきた。頑張ってきた自己の努力に対する自信や「仕事への自負」が、仕事で味わった「達成感」や「醍醐味」と共に、定年後も働き続けたいという思いを生み、働き続けることは大前提で、その上で、セカンドキャリアで何をやるかの選択が問題だった。

現役時代は管理職として自身に任された組織の成果の最大化をミッションとして何をすべきかを優先させてきた。だからこそ定年後という新たなステージでは、自分の「やりたいこと」を優先している。さらに、均等法第一世代の働く女性として理不尽な差別に会い、自分の自由になる時間も取れない中、それでも働き続けてきた自己に対する「ねぎらい」が、残りの「人生を楽しみたい」し、経済性よりも「自分のやりたいこと」を優先する指向に彼女たちを向かわせている。

 

つまり、女性管理職の定年後のキャリア選択にはこれまでのキャリア形成の結果として得た「自分のやりたいこと」を優先する「自己指向」と「価値優先」が顕著に現れていると言える。これはプロティアン・キャリアの特徴である。これらが定年後のキャリア選択に「納得感」を与え、「心理的成功」につながっている。

「自己指向」と「価値優先」の結果、「やりたいこと」が社内にある人は社内に残り、外にある人は社外への転出を選択した。さらに、管理職としての経験による「仕事への決定権」や、組織の枠から「より自由になる」ことへの指向がより強い人が「起業・独立」を選択している。

 

女性管理職はセカンドキャリアへのシフトを、これまでのキャリア形成で身に付けた変化に適合するしなやかさを活かして実現している。女性は男性に比べてライフイベントの影響を受けやすい。これは、自己が保有する複数のサブ・アイデンティティが、お互いにコンフリクトの関係性を生みながら、ある時は別のサブ・アイデンティティに形を変え、ゆらぎながら優先度を変化させることが影響するもので、女性の場合、この変化が男性以上に大きいことによる。

特に女性管理職の場合は、そうでない女性に比べ、その立場が、ある時はより一層の「サブ・アイデンティティ間のコンフリクト」を生み、より多くの変化を経験してきている。しかし、彼女たちは、変化に翻弄されることなく、柔軟に対応しながら、バランスをとり、その経験を蓄積してきた。これは「内面的に変身する過程で経験を蓄積する」というプロティアン・キャリアの本質を体現している。

 

参考文献・紹介書籍