FBIを支える行動規範
FBIは予算・技術・武器などの外的要素によってではなく、常に全員に内面的な優秀さを求める行動規範を作り上げ、それを局員に注入することで素晴らしい成果を残してきた。捜査官たちが、FBIアカデミーに入った瞬間から注入される行動規範を、類まれなハイレベルで実践しているということこそがFBIの本質である。
FBIのコア・バリューを守り、受け継ぐプロセスは、次の7つあり、これこそがFBI WAYである。
①規範(Code)
コードとは原則や規則の体系のこと。コードとは言い換えると、辛辣な攻撃を切り抜けるために必要な、個人や組織の価値観である。真剣に誠実であろうとする者には明確な行動規範が必要である。FBIでは、誠実さはコア・バリューであるだけでなく、公式なモットー「忠誠、勇気、誠実」にも含まれている。曖昧さのない明確な道標があれば、個人個人はコア・バリューを損なうようにではなく、コア・バリューを補うように行動する。
すべてのよくできた行動規範には、組織のコア・バリューを反映しているという共通の特徴がある。FBIがコードを維持管理する時には、次ページの8つのコア・バリューからスタートする。
- 合衆国憲法に厳格に従うこと
- 我々が保護するすべての人々の尊厳を尊重すること
- 思いやり
- 公平性
- 妥協なく個人として誠実であること、および、組織として誠実であること
- 行動と決定の責任と、行動と決定の結果責任とを受け入れることによる説明責任
- 公私にわたるリーダーシップ
- 多様性
②価値への共同奉仕(Conservancy)
コンサーバンシーとは、共同で力を尽くして地域や物事の真の価値を守る取り組みだ。加わった者は組織の一員となり、自分より大きな存在を守る責務を担う。そして、自分がその責務を果たしていると思える時には、組織の価値観にただ従っているのではなく、その価値観が自分の中に溶け込んでいる。
組織がコンサーバンシーの精神の種を蒔く第一歩は、メンバーに各自の行動が組織にどのような影響を及ぼすかという観点で責任を負わせることだ。そして、組織の価値観を守るためには、リーダーが説明責任を負わなければならない。結局は、上位のリーダーの振る舞いと不祥事に対する姿勢が、その組織に誠実さを育む。コンサーバンシーという考え方は、正しく運用すれば、組織の規範を保つ強力な武器になる。
③明確さ(Clarity)
FBIには「越えてはならない線」がある。これは単なる規範ではなく、ほとんど宗教的戒律だ。線を越えたらクビになる。FBIの誰もが、何がその線か知っている。なぜなら、目立つように公表されているし、明確に実行されているからだ。その線の中で最も重要なものは「宣誓した上での不誠実」である。嘘をつくFBI職員は、実際のところFBIにとって価値がない。
④結果責任(Consequences)
デタラメで気まぐれなやり方で懲罰を決めると、規範を守らなければ、という意識を腐らせ、信頼を損ない、根本にある公平性に反することにもなる。唐突なアプローチは、その瞬間は正しい行いだとしても、心に響かず、効果が続かない。不正行為をしたらどんなコンセクエンスを負うことになるのかをはっきりさせ、伝えることが大切だ。FBIでは職務責任局が責任を持って、懲罰規則の「懲戒処分の幅」を定期的に見直し、職員に職員に公開しているので、予想されるコンセクエンスがはっきりとわかる。これにより、決裁者と職員が共通の考え方の上に立って話ができる。
⑤慈悲・思いやり(Compassion)
コンパッションとは、他の人の苦悩や、それを和らげたいという強い思いに共感する心だ。コンパッションのおかげで、不寛容になりやすいシステムは公正に保たれている。懲戒処分を決める人物が、組織だけではなく、組織の中の「人」を理解すれば、その人物が決めた結果が少しずつ受け入れられるようになっていく。だからFBIで裁定を行うのは、調査される側である職員としての経験を積んだ、ベテランの特別捜査官と情報分析官たちなのだ。
コンパッションは、FBIの懲戒プロセスだけでなく、犯罪の被害者とFBIとの関係の核にもなっている。
⑥信頼(Credibility)
クレディビリティは、自らの価値観に基づいて物事に取り組む場合の礎だ。私たちが意図を持って物事に取り組む場合、その多くは、何かしらの形で価値観に基づいている。自分たちの仕事を成功させ、長く続くものにしたいなら、私たち自身も、私たちが提示する価値観も、人から信頼されるものでなければならない。価値観がリーダー個人の人格を超えて生き残るかどうかを決めるのは、クレディビリティだ。
⑦一貫性(Consistency)
組織は、FBIのように職員が自分の意見を言う権利を認め、コア・バリューを自らの行いで示すリーダーを昇進させ、価値観に対する脅威から本能的に身を守ることで、圧力がかかっても一貫して正しいことをやり続けられるようになる。価値観を揺るぎなく守り続ければ、自分が大切にするものを手放すことなく、軸足を地に着けたまま必要に応じて順応でき、それにより、逆境に置かれた時の復元力というさらなる力が手に入る。