勝利の流れをつかむ思考法 F1の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか

発刊
2022年10月6日
ページ数
240ページ
読了目安
246分
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推薦者

F1チームで成果を出すためには何が必要か
元ホンダF1マネージングディレクターが、2015年にホンダがF1に4度目の参戦をしてから、2021年に優勝するまでの過程と苦労を語った一冊。
当初、マクラーレン・ホンダとパートナーを組んだものの、コミュニケーション不足やリーダーシップの欠如で、チームが機能しなかった経緯などを解説し、成果を出すには技術だけでなく組織力を高めることが大切だと語っています。

コミュニケーション不足では勝てない

2015年からパワーユニット(PU)サプライヤーとしてF1の世界に4度参戦を果たしたホンダは、「マクラーレン・ホンダ」を復活させたがなかなか思うような結果が出せず、PUトラブルが相次いだ。そして、2017年にマクラーレンとのタッグを早期に解消した。

期待に応えられなかった理由は、いくつかある。1つがテクニカルの問題だ。F1の世界では2014年から従来の「エンジン」に代わって、内燃エンジンやターボチャージャー、エネルギー回生システム、バッテリーなどで構成された「パワーユニット(PU)」と呼ばれる動力システムが導入された。ホンダはこのPUを開発し、2015年から参戦したが、ライバルたちは既に2009年からPUの前段階となる運動エネルギー回生システムを導入し始め、開発を進めていた。参戦当初から、ホンダは大きな後れをとっていた。

しかも、当時のマクラーレンはマシンを極限まで速くするために、車体のリアをタイトに絞り込む「サイズゼロ」というコンセプトを採用していた。その結果、ホンダはPUについての経験値が不足していたにもかかわらず、他チームよりもさらにコンパクトなPUをつくるという、難易度の高い作業に向き合わねばならなかった。

 

しかし、そうしたテクニカル面よりも、苦戦を強いられることになった真因は、ホンダとマクラーレンのコミュニケーション不足にあった。当時は「自分たちがお互いにそれぞれの仕事を遂行すれば、必ず勝てる」という意識をホンダとマクラーレンは共に抱いていた。しかし、そうした意識が結果的にコミュニケーション不足を生み出した。お互いにリスペクトし合うあまり、腹を割った議論が不足し、情報の共有が疎かになっていたのだ。マクラーレンから、車体の情報がほとんど入ってこなければ、うまくいくはずがない。

 

さらにもう1つ、マクラーレン・ホンダが苦戦した要因は「勝つこと」を唯一のゴールとして、すべての意識をそれに集中させるようなリーダーがいなかったことだ。レースの戦績を見れば、マクラーレン・ホンダが正しい方向に進んでいないことは明らかだったが、「何かがおかしい」と声を挙げる者は限られていた。2016〜2017年のマクラーレン・ホンダは、優勝など夢のまた夢という現実、そして一向に速くならないマシンを目の当たりにして、ホンダ、マクラーレン双方に猜疑心が生まれ、それがレースを終えるごとに高まっていくというような状況だった。

 

テクノロジーがより進んだマシンを駆る者がチャンピョンになる、という言説は、F1の一側面しか捉えていない。最先端の車体やPU、それをつくり上げて走らせるスタッフ、才能溢れるドライバーなどを完璧に統合し、それらを1つの力に変えて前に進めていけるチームこそが、勝利に近づける。

つまり、テクノロジー以上に重要になるのは、そうした世界を乗り切っていくアジャイルな組織マネジメントや、その礎ともなるコミュニケーション力なのだ。

 

成果を左右するのはチームとしての総合力

マクラーレンとの円満離婚を経て、2018年シーズンから、ホンダPUはスクーデリア・トロロッソのマシンに搭載されることになった。まずはエンジニアやメカニックたちが互いのファクトリーを訪問し、ワンチームとして情報交換をするところからスタートした。そこでわかったのは、ホンダは車体やPU関連で知らないことがたくさんあるということだった。
トロロッソは車体の情報を包み隠さず教えてくれ、その知識はPU開発に多大な影響を及ぼした。

これまで完成したエンジンやPUに合わせて、自分たちのマシンを設計していたトロロッソ側も、ホンダPUを載せることになり、PUに合わせて車体を同時開発できることになり、士気が上がった。

 

とは言え、トロロッソのレース戦績は2006年の参戦以降、2008年の第14戦イタリアGPの優勝1度がハイライトで、コントラクターズランキングも同年の6位が最高。トロロッソ・ホンダというタッグで「レースに勝つ」ということのハードルは高かった。

そうした状況下、トロロッソの姉妹チームであり、現在のF1のトップチームの1つ、レッドブルレーシングとタッグを組むことになった。2019年からスタートしたレッドブルとの共闘は、ホンダのメカニックたちにこれまでとは違う緊張感をもたらした。レッドブルは、過去に4シーズン連続でWタイトルを獲得している強豪である。モチベーションが上がると同時に、もう絶対に失敗はできないというプレッシャーも生じた。そこから執拗なまでの改善を続けた上で、2021年にレッドブル・ホンダは、ドライバーズチャンピョンを獲得した。

 

レッドブル・ホンダのマシンは、メルセデスのマシンに実力では敵わなかった。ドライバーの技術面でも互角だった。しかし最後にものをいったのは、人間の思いがベースになったコミュニケーション力、それに基づいたチーム戦略だった。その勝敗を分けたのは、テクノロジーではなく人間力だった。

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