ナレッジワーカー・マネジメントとは
IT・広告・コンサルティング業といった知的サービス業では、クライアントからプロジェクトを受託し、一定の予算と期間で成果物の納品または役務提供を行うことが多い。ナレッジワーカーは、クライアントの個別具体的な特殊案件に対応するなど、まだ定型化・標準化されていない業務を、自らの専門知識を使って処理することが求められる。そのため、個人によって能力や生産性のバラツキが大きくなる。
知的サービス業の競争力の源泉は、高度な専門知識・スキルを備えたナレッジ・ワーカーであるから、事業を継続的に成長させるためには優秀な人材の採用・育成・抜擢・定着に取り組む必要がある。そして、プロジェクト単位で見える化を推進し、KPIを活用したマネジメントによって、経営者が思い描く「あるべき姿」へと組織・個人を方向づけながら、メンバーの能力や生産性を客観的・公平に評価しなければならない。
ナレッジワーカー・マネジメントとは、高度な専門知識を備えた人材が競争優位の源泉となる知的サービス業において、組織全体が中長期にわたって成果を出し続け、経営理念・ミッションを実現することを目的に、KPIを通じて個人・組織を方向づけながら、見える化された経営数字を用いて経営することである。その要点は次の3つである。
①目的の定義
数字で語るマネジメントの「目的」を定義し、社内で共通認識を持つ
②見える化
経営理念や事業のミッションから事業・部門・個人のKPIを逆算し、KPI管理に必要なデータの見える化を経営マターで推進する
③人材管理
KPI管理が短期主義やセクショナリズムを招かないよう、メンバーが中長期の持続的な成長および全体最適を追求するインセンティブ設計を行う
知的サービス業の4つの壁
知的サービス業には、業種固有の要因として、見える化を阻む「4つの壁」がある。
①業務管理の壁
業務が属人化している領域が広いほど、作業工数の見積も担当者の感覚に依存してしまう。主観的な見積になると精度のブレ幅が大きくなるほか、作業工数の予実分析を行えず、業務内容や稼働状況がブラックボックス化する。
改善を試みるには、まずは標準的な業務フローや標準的なプロジェクト進行を整理・モデル化することから着手するとよい。標準的な業務フローを念頭に置き、個別の業務・プロジェクトにおいて、どの作業工程でどれだけの作業工数が発生したかを定点観測することが、見積精度の改善の王道となる。
②売上管理の壁
都度受注するスポット案件が多くあり、かつ事業形態によって受注までのリードタイムが様々であるため、売上予測がブレやすい。売上のヨミの精度を高めるために効果的なのが「フォーキャスト管理」である。この精度を高めるには、次の2つの方法がある。
- コミュニケーションのルール整備
- 受注に至るプロセスを分解してKPI管理を行うパイプライン管理
③損益管理の壁
知的サービス業の費用の大半は人件費である。プロジェクト別の原価計算を精度高く行うには人件費の配賦は避けて通れず、作業時間を記録する工数管理が欠かせない。人件費の扱い1つでプロジェクトの損益が大きく変わるため、損益のデータを公開し、現場メンバーの意識や行動も変化させる必要がある。
④生産性管理の壁
業務のシステム化や自動化を進めることで生産性向上に務めている企業は増えている。それでも、劇的に向上していかないのは、現場社員の意識が低い点も大きいのではないか。生産性を高めて利益を拡大するには、まずミドルマネジメント層の育成が重要である。現場が経営を自分ごととして考えるきっかけをつくるには、まずは経営数字を見える化して公開することが効果的である。
4つの壁を乗り越える7つの鉄則
①KGI・KPIは、経営理念・ミッションから逆算し、見える化の目的を明確にする
②部門の責任を明確化し、権限をすべて部門長に委譲する
③ノルマとKPIは別物、全体最適・中長期の目線を持つ
④経営管理は、まず売上の「フォーキャスト管理」から取り組む
⑤工数管理抜きに知的サービス業の利益確保はできない
⑥第六感に頼る前に、自ら率先して生産性を数字で語る
⑦実践の絶対条件は「正しいデータ」の入力にある