パワーは常に相対的な存在である
相手に影響を及ぼすには、その人が大切に思っているリソース(財産)へのアクセス権を支配すればいい。誰かに対してパワーを有したいなら、まずその人が大切に思うものを手に入れる必要がある。お金や家、車のように見えるものの場合もあれば、自尊感情や帰属意識、達成感といった心理的なものもあり得る。さらに提供できるリソースは、相手が他の手段では手に入れにくいものである必要もある。
相手が大切に思うものは何か、それは他のルートでも入手可能か否か。これがわかれば、自分のパワーの大きさもわかる。但し、パワーバランスの全貌を理解するには、自分が重視するリソースを相手が持っているか、そのリソースへのアクセス権が相手の支配下にあるか、という点も考慮する必要がある。誰かに対するパワーの大小は、相手が自分に対してパワーを有しているか否かによって変わる。
パワーは常に相対的な存在である。パワーは必ずしもゼロサムゲームではない。時間の経過とともにバランスが変わることもあるし、一方がパワーを得たからと言って、もう一方がパワーを失うとは限らない。
パワーの基本原理
パワーを構成する基本要素は次の通り。
- あなたが重視するリソース
- あなたが引き換えに提供できるもの
- 相手が重視するリソース
- 相手が引き換えに提供できるもの
4つの要素は、相互に作用し合っており、要素間のバランスは時間の経過と共に変わっていく。そして、パワーバランスを変えるための戦略は、次の4つの分類できる。
- 引き寄せ:自分の持つリソースについて、相手から見た価値を高める
- 連携:相手の持つ、自分以外の入手経路を減らす
- 拡大:自分の持つ、相手以外の入手経路を増やす
- 撤退:相手の持つリソースへの関心が薄らぐ
これらの戦略は太古の昔から現在まで、そして家族や友人、同僚との関係から組織間や業界同士、さらには国家間の関係まであらゆる場面で活用されている。
パワーの基本原理を理解すれば、いかなる人物もパワーを所有することはできないことがわかる。他者に対するパワーの有無は、相手が何を欲しているか、そして自分がそのアクセス権を有しているか否かで決まる。同じように、相手のパワーの有無も、こちらが大切に思うものへのアクセス権の有無によって決まる。つまり、パワーの有無は人間関係の状況次第なのである。
パワーと賢く付き合う方法
パワーとは価値あるリソースへの支配権に内在する力であり、それ自体は善でも悪でもない。このパワーの本質を理解できれば、責任を持ってパワーを活用できる可能性が開ける。そのためには、パワーがもたらす陶酔感に打ち勝ち、同時に、権力を濫用しないコツを身につける必要がある。
難しいのは、パワーは汚らわしいものだという思い込みや、驕り高ぶるリスク、他者に無関心になる罠を回避して、パワーとのバランスの取れた関係を探ることだ。パワーとのバランスの取れた関係は一朝一夕に育まれるものではない。頭で理解するだけでなく、感情面でも折り合いをつけるべき問題だからだ。
最初のステップは「パワーは汚らわしい」という思考回路から解き放たれ、「パワーは変化を起こすエネルギーを秘めている」と理解すること。次に、自分は価値あるリソース(他者の幸福度を高められるパワー)を有していると理解するステップが来る。
この成長のプロセスを順に経ることで、人は善なる目的のためにパワーを行使できるようになる。但し、現実には高潔な目的のためにパワーを行使していても、いつの間にか自己中心的で思い上がった行動を取ってしまうことはある。そのため、共感力と謙虚さを育むことによって、このジレンマを克服することが必要である。
深くて永続的な共感力を育むためには、一時的に他者の目線に立って世界を眺めてみるだけでは不十分で、自己中心的な視点から、「持ちつ持たれつ」の関係に気づき感謝できる視点へのシフトが求められる。自分を他者と切り離された存在とみなすか、他者とつながり、互いに支え合う存在とみなすかという自己認識の変化である。
謙虚さを育むためには、何事も永遠には続かないという意識を持つことである。これによって、驕り高ぶる気持ちを封じ込められる。共感と謙虚さが揃うと、自らの利益ではなく他者のためにパワーを使おうという思いが湧いてくる。
人は何に価値を見出すのか
突き詰めれば、人間が満たしたい基本ニーズは2つである。
- 安全:危険から守られる
- 自己肯定感:自分は尊敬されるべき存在だと思える
両者は極めて根源的な欲求であり、時代や場所を超えてパワー関係の形成に寄与してきた。この基本ニーズを満たす手段には、様々な要素がある。
- 物質的リソース(金、資産)
- ステータス(社会階級、名声、敬意)
- 功績(能力、学び、進歩)
- 人とのつながり(友情、愛情、帰属意識)
- 自律性(選択や人生設計を自分でコントロールできる)
- 倫理観(美徳、道徳)