創業者の姿勢の本質を戦略に落とし込む
ジャパネットがテレビ通販に進出したのは1994年。この事業で業績を大きく伸ばせたのは、父自身が通販番組に出演し、絶妙なセールストークで商品の魅力を引き出し、伝えたから。ジャパネットの魅力は商品やサービスもさることながら、父の語り口そのものにあった。父は商品の「機能」ではなく、「便益」に焦点を絞って話をした。その商品が技術的にいかに優れているかより、その商品を購入することで生活がどのように快適になるかを話す方が、お客様は買ってみようかなと思うことを、半ば直感でわかっていた。
2005年に父が社長を退任した時、一番危惧していたのはテレビ通販番組のMCの部分だった。社長の父が自らMCを務め、朴訥としているようでマーケティングの本質を突く絶妙なトークを展開する。それが、大きな強みだった。
父がテレビに出なくなっても番組はつくれるが、それだけでは長いスパンで見た時、発展することは難しい。そこですべきだったのは、父のトークを表面的にまねることではなく、お客様の心をつかんだ父の姿勢の本質をつかみ、考え方や行動、事業や会社の仕組みの隅々にまで、その本質を浸透させることだった。父が感性で実行し、成功していたことを、理論的な戦略に落とし込んだ。
ジャパネットの本質的な強み
ジャパネットの本質的な強みは、次の3つのステップを愚直に続けてきたことにある。この3ステップにきちんと取り組みさえすれば、どんな商品も大抵は売れる。
①見つける
競争力のある商品に絞って展開する「厳選集中」が、ジャパネットの大きな特徴である。大手ネット通販のような幅広い品揃えではなく、「これこそは」と思う商品に絞り込む。
②磨く
いい商品を見つけるだけでなく、メーカーに要望を出し、いい商品をさらに改善するといった方法で、商品を磨いてきた。分割金利手数料を負担したり、下取り、設置サービスなどの取り組みも「磨く」に入る。
③伝える
消費者にその価値を丁寧に説明し、伝えるべきことをきちんと届ける。
「磨く」を徹底的に深掘りする
ジャパネットの事業全体を見渡すと「見つける」「伝える」活動が、概ね9割を占めていて、「磨く」活動は相対的に少なかった。そこで父の後を継いだ時、磨くという部分を特に強化した。
・修理などのアフターサービス専門会社や設置・配送専門の会社を設立
・クルーズ旅行サービスの企画販売
磨くというのは、商品やサービスの改善ばかりではない。海外で取引先のトップと交渉して、何十万個という商品を一度の商談で買い付けるということも磨くことである。多くの数を販売することで、市場の価格より安く、お客様に提供できる。
7%に絞って尖らせる
2016年、ECサイトを刷新するのに合わせて、取り扱い商品数を約8500点から600点程度に大きく絞り込んだ。残った商品は7%ほど。商品数を9割以上減らした。そのすべての商品に45秒間の紹介動画をつけた。
インターネット上にはたくさんの通販サイトがある。その中でお客様にどうしたらジャパネットのサイトを見てもらえるかを考え、番組制作という強みを活かし、紹介動画を載せることにした。厳選した商品をより多くのお客様に届ける「厳選集中」を強化した。
「買った後」の体験価値を上げる
ジャパネットは通信販売を始めた時から、アフターサービスに取り組んできた。当時は、地方にある無名の通販会社であり「壊れたり、故障したりした場合にきちんと対応してくれるだろうか」というお客様の不安を解消し、安心して商品を買い求めて頂きたいという想いがあったからである。今では、お預かりした商品の7割程度をグループ会社で直せるようになった。さらに現在は、電話を受けてから修理した商品をお届けするまでの時間を3日以内にすることを目標に掲げている。
ジャパネットは「お客様が衝動買いをする会社」である。だからこそ、お客様に誇れない商品やサービスを販売しないし、買って後悔することがないよう、アフターサービスまで責任を負うことを大切に考えている。