しなやかで強い組織のつくりかた 21世紀のマネジメント・イノベーション

発刊
2022年6月30日
ページ数
272ページ
読了目安
308分
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推薦者

環境の変化に強い組織をつくるための指針
環境の変化に強いレジリエントな組織はどのように作ればいいのか。旧来の日本的組織の課題を指摘しつつ、日本企業が目指すべき組織のあり方を示し、そのための指針を紹介しています。

組織が目指すべきゴール

まじめさ、規律、継続力、犠牲心など日本的組織の強みは、20世紀の競争条件によく合っていた。一方、日本的組織の課題は、変化が目まぐるしく、不確実性が高く、境界線が曖昧で、なおかつ働き手の価値観が大きく変わっている今日の市場において、決定的なハンディになりかねない。前例主義にとらわれ、スピード感が鈍く、リスクテイクがしにくい。

KPIと数字の達成、ルールの厳守、そして効率向上の追求によって動く組織から、人間的ポテンシャルを大いに発揮でき、働き手が持つ創造欲と貢献欲を満たしつつ、成功できる企業への転換が待ち望まれている。

 

ただ単に財務指標を達成するのではなく、明確な社会的ミッションを持って、社員も幸せにできる会社、未来に適応できる「すばらしい企業組織」では、必ず3つの条件の同時達成が必要になる。そして、その同時達成を日々の行動を通じて可能にしていくことが、リーダーとマネージャーに課せられる第一の使命である。

  1. 長期にわたって事業ミッションを遂行し、適切に稼ぐ続けること
  2. 働く人を活かすこと
  3. 社会的善を生み出し、社会課題の解決に参画・貢献すること

 

これらが生存・発展に資する組織の条件であり、社会との共発展を遂げられる企業の礎である。ポイントは、この3条件の同時達成である。目指すべきは3つのトレード・オンである。

  1. 企業の発展と健全な社会および自然環境の間のトレード・オン
  2. 組織の発展と働き手個人の実感、やりがい、いきがいの間のトレード・オン
  3. 業績・ワークと家族と暮らしの、幸福度のトレード・オン

 

トリプルAの組織体質を構築せよ

目指すは「しなやかで強い人間集団」=レジリエント・カンパニーであり、レジリエントな組織である。レジリエントな組織の実現のために、今、日本企業に最も必要なのは「マネジメント・イノベーション」である。

そして、マネジメント・イノベーションを起こすための手法として、「組織体質のトリプルA」という原則がある。その下に具体的な行動がぶら下がる。

 

①Anchoring(アンカリング)

企業には必ず社員を束ね、共通目標に向かいたいと思わせる前向きな力が必要である。目まぐるしく変化するVUCAの時代においてこそ、心のアンカー(碇)が大切になる。アンカリングを強化するためには、次の3つの行動が効力を発揮する。

  1. 強い信頼関係の醸成
  2. 使命感、パーパス、存在意義、企業理念、価値観の活用
  3. 明確な将来展望の設定と共有

アンカリングの「A」が薄れていくと、組織の団結力が失われ、社員は日々、「何のために」「どこに向かって」仕事をしているかを見失っていく。

 

②Adaptiveness(自己変革力)

変化の激しい事業環境の中で、常に学びを重ね、変わり続けられる組織をつくることが必要になる。自己変革力は「手先の器用さ」「フットワークの俊敏さ」になる。組織内に自己変革力を高める行動には次の3つがある。

  1. 組織的学習の進化・高度化
  2. イノベーションの効果的な仕組み化・仕掛け
  3. アジャイル(俊敏)な市場開拓・R&D活動

「手先の器用さ」や「フットワークの軽さ」を同時に備えておかなければ、組織は硬直化し、事業はじり貧へと向かう。

 

③Alignment(社会性)

誠実な振る舞いをもとに、社会の大きな潮流を深読みし、そして自社の戦略、イノベーション、ブランドアイデンティティに、社会・環境課題への真摯な対応を組み込んで行動すること。これは21世紀市場における極めて重要な組織体質や組織的能力と、とらえることが大切である。社会性を組織的に高める行動には次の3つがある。

  1. 誠実なカルチャーとふるまいの醸成
  2. 社会・環境とのトレード・オンを目指した戦略とイノベーション
  3. 社会性を含んだブランドアイデンティティの確立

 

できることは、絶えずトリプルAを磨き続けることである。使命感と団結力、創造性と俊敏性、誠実性と社会感度を高め、しなやかに変化に対応ができる、挽回力の高い人間集団をつくることである。

 

トリプルAのようなフレームを駆使し、マネジメント変革を起こすべきは「すべての役職者」=「すべてのマネージャー」である。ただ単に日々の業務や目標の管理をしていては、マネージャーとしての責務の半分しか果たしたことにならない。もう半分は、「可能性のない分野から可能性のある分野への組織的移行ができるための起業家的活動」である。これが、マネージャーに求められる活動の重要な一面である。