差別化の罠
ビジネスの世界では、差別化がすべてだという事は誰もが知っている。しかし、私たちは「違っている」ことの意味を忘れつつある。「差別化」というコンセプトを口では賞賛しながらも、実際には違いではなく、類似品ばかりが目立つブランドを生み出し続けている。
商品のカテゴリーが成熟するつれて、選択肢は幾何級数的に増加する。そして、選択肢が増えるにつれて、違いは小さくなっていく。石鹸でも靴でもシリアルでも、数こそあるが、その違いのほとんどに意味がない。藍色と緑青色の違いは微細なものである。
企業は競合他社の情報を得ると、以下の2点の影響を受ける。
①近視眼的な競争が生み出される。
他社が何をしているか、常に気にかけ監視に労力を費やす。
②競合他社の行動を模倣しようとする。
比較するモノサシそのものが、同質化を生み出してしまう。
10年前のボルボは実用性と安全性で知られており、アウディはスタイリッシュさで人気があった。最近では、アウディは安全性テストでボルボをしのぎ、ボルボの広告はスマートな走りを演出している。
カテゴリーが成熟するにつれ、企業は競い合い、異質的同質性を帯びるようになる。消費者の選択肢は急増するが、その違いは消費者にとって無意味になる。
競争の群れから抜け出す方法
競い合う群れから抜け出すためにイノベーションを実現する方法は、以下のような方法がある。これらのブランドに共通する点は、差別化戦略がいわゆる市場調査に基づいていない点である。
①リバース・ブランド
他社が競争に欠かせないと思っている価値をあえて提供しない。
Google:Yahoo、AOLのような過度な情報を提供しない
IKEA:わざと配送や組み立て等といったサービスを提供しない
②ブレークアウェー・ブランド
商品を再カテゴリー化させる。
AIBO:ロボットではなくペットとして認識させる
スウォッチ:日常のファッションアクセサリーとして価値提供する
③ホスタイル・ブランド
消費者に媚びず、挑戦状を叩き付ける。
ミニクーパー:小さすぎる欠点をあえて前面に出し、文化として根付かせる
レッドブル:心配なら飲むな、という態度で販売
差別化は手段ではない。考え方である。姿勢であり、傾聴や観察、吸収、尊重から生まれる。何よりも取り組みである。そして、以下の2点については確信を持っている。
①偏りには価値がある。
②挑発には価値がある。