ビジョンやミッションで食えるのか?
大企業からベンチャー企業に至るまで、企業には経営理念が必要だという考え方はある種の常識になった。しかし、経営理念を定め、共有している企業は業績が良いという考え方は一見正しそうだが、実はそうではない。
各社の独自性のあるビジョンやミッションがどの程度業績に影響するのか。
調査の結果、高業績な企業と低業績の企業との有意な差は「自社の経営哲学」「経営のコンセプト」「公的なイメージ」に含まれている要素であることがわかった。低業績企業のミッションステートメントは高業績企業とは異なり、企業の経営哲学やコンセプトを明確に語っておらず、あくまでも市場や製品について紹介するだけにとどまってしまっている。
また、ミッションステートメントの有無で、売上高利益率、成長性、社員満足度については有意であったが、総資産収益率については差がなかったと結論づけられた。
つまり、ミッションステートメントがある企業は社員の満足度が高く、企業の成長につながり、結果として企業の収益性も高まると考えられる。一方で、資産を効率的に活用して収益を上げられるかどうかについては、経営戦略やビジネスモデルの影響が強いため、ミッションステートメントだけでは説明できない。
ポジショニングかRBVか
ポジショニングアプローチとは、マイケル・ポーターを中心とする経営戦略の理論であり、企業の超過収益力は企業が所属する業界構造が魅力的か否かによって説明づけられるというものである。
リソース・ベースド・ビュー(RBV)論は企業の超過収益力は企業を構成する経営資源の良し悪しやその独自性によって決まるとするものである。その経営資源が模倣困難なものかという視点を重要視する。そして、ポジショニング理論だけでは業界全体の収益性の大小については説明がついたとしても、個々の企業のパフォーマンスは説明できないと主張する。
これらの論文から、企業の収益性と企業価値を最大化するには、次の2つが重要だと導き出せる。
- 企業のコア事業と関連性がある成長分野を見つけること(ポジショニング)
どのような事業分野にチャンスがあり、どのような企業がその業界に参入していて、勝つ可能性が高いかというシビアな選択を行う視点が必要になる。 - 企業のコア事業を活かした競争戦略を策定すること(RBV)
自社が他社よりも勝る経営資源は何か、それがどのように獲得・蓄積されてきたものなのか、その経営資源があると、競争上どの程度優位なのかという視点が必要になる。
企業がニューノーマル時代における新しい事業の目を見つけるフェーズではポジショニングアプローチを活用し、それによって見つけた事業において、勝てる戦略とビジネスモデルを構築するフェーズではRBVの視点を活用するという2つの理論の併用が、あるべき姿である。
どのように企業の経営資源をアップデートするか
両利きの経営とダイナミック・ケイパビリティという2つの理論は、企業は希少な経営資源を獲得したら終わりではなく、それらを組み合わせ、時には廃棄しながら進化させていくダイナミック(動的)な視点から企業の競争優位を分析しようとしている。
両利きの経営のキーワードは「深化」と「探索」という概念である。既存事業でしっかり稼ぎながらも、外に目を向けて新しい知識や経営資源を獲得し、それによって新規事業と既存事業とのバランスを図るという考え方である。
ダイナミック・ケイパビリティでは、企業は経営資源を獲得しただけでなく、それらの能力を統合したり再構築したりしながら、外部および内部の変化に対応する能力が必要であると指摘する。そして、外部環境の変化に合わせて、経営資源を再配置する組織的な能力こそがダイナミック・ケイパビリティであるとされた。
この2つは、どちらも近年登場した理論であり、ニューノーマル時代にも参考になる。
特に変化の早い業界においては、企業は絶え間ない進化、そして変化を迫られる。そうした中では、既存の事業を行うために必要な知識の「深化」だけでなく、新しい事業に踏み出すための知識の「探索」も必要である。そして、それらを行うためには、企業は自社の経営資源の配分を柔軟に変化させながら、ダイナミックに経営資源を入れ替えていくことが必要になる。
つまり、両利きの経営という大きな企業の方向性の中で、両利きの経営を成功させるための前提条件として、ダイナミック・ケイパビリティが必要になる。