権力関係は「すべての場」に存在する
人生の成功や影響力、満足をもたらすのは権力の大きさではない。人からどれほど権力を持っていると思われるかでもない。それを決めるのは、今持っている権力を使って他者のために何ができるかということだ。
私たちは権力を「個人が自由に使える資産」であり「自分を強くするための資源」だと考え、権力の獲得が、いつの間にか自己目的化してしまった。しかし、もっと権力が要るという考えは、私たちの恐れを刺激し、破壊的本能を強化してしまう。権力の使い方を間違うとどうなるかは、ニュースを見れば一目瞭然だ。
権力はあらゆる役割や関係性の中に存在する。互いを必要としている人と人の間を行き交うリソースが権力だ。私たちは誰でも、与えられた役割に応じて他者に対して権力を持っている。自分が何者であるか、卓越した能力があるか、状況に対処できているか、自分がどう感じているかとは関係なく、何らかの権力を持っている。
多くの動物の集団で、高いステータス(尊敬、賞賛、大きな権力)を得るのは力や強みを自分のために使う個体ではなく、集団の問題を解決するために責任を持って有効に使った個体であることが研究によってわかっている。
個人的に大きな望みを持つことや、地位を築きたいと思うこと自体は悪いことではない。しかし、私たちは、力のない人のことを思いやることによっても、集団の中での地位を高めることができる。それが権力をうまく使うということの意味である。
権力の「アップ&ダウン」を使いこなす
どんな人でも、その権力には2つの顔がある。権力を誇示して、見せつけ、誰が上かを相手に知らせることもできるし、権力をひけらかさず、最小化し、自分にとって相手がいかに重要であるかを知らせることもできる。私たちは、どちらかの顔を先に見せ、そればかりに頼る傾向があるが、権力を上手に使うためには、無理なく両方の顔を見せられることが望ましい。
①プレイ・ハイ(自分を大きく見える戦略)
パワーアップしてステータス争いに勝とうとしている人物を演じる時の方法を「プレイ・ハイ」と呼ぶ。プレイ・ハイは「自分を相手より高める」か「相手を自分より引き下げるか」のいずれかだ。自分を高める方法には、例えば有力者と親しい関係があるかのように話したり、専門知識を持ち出したり、自分が格上であることをひけらかすような行為がある。相手を引き下げる方法には、批判する、裁く、反対する、あざける、無視するといった行為がある。
プレイ・ハイには、適している場面と適していない場面がある。いつどんな状況で演じられたかによって、相手には攻撃性、傲慢、無関心、不遜さが伝わったり、反対に、能力、威厳、冷静沈着、寛大さが伝わったりする。状況に関係なく、プレイ・ハイ一本槍というのは間違っている。
パワーアップは他者とのやりとりで成功をもたらすかどうかは、文脈(状況、狙い、相手、実際に持っている権力)に依存する。大切な人に安心を与えたい場合、「自然な方法」や「自分らしい方法」で動くより、パワーアップやパワーダウンで動く方が成功する可能性が高い。パワーアップはケンカ腰で敵をつくる行為に見えるかもしれないが、集団の中では、それが最も思いやりのある選択肢であることも少なくない。どんな集団でも、誰かが上に立って指示を出し、物事をコントロールする必要があるからだ。
②プレイ・ロー(相手を優位に置く戦略)
自分を小さく見せる戦略を「プレイ・ロー」と呼ぶ。人は他者を刺激することを避けるために無意識にこれを採用する。
力を上手に使うという点では、パワーダウンも合理的な戦略である。パワーダウンは弱さを示すことではない。リスクを取ってでも自分より他者の利益を優先できるほどの強さがあり、安全が確保できていることを示すものだ。相手に命令するのではなく、敬意、思いやり、尊重を示す行動だ。人とつながり、人を仲間に引き入れようとする行為だ。力を放棄することではなく、当面の戦いに勝つために、ステータスや権威を棚に上げておくという決断である。
パワーアップが権威を示す方法だとすれば、パワーダウンは近づきやすさを示す方法だ。パワーアップが相手と戦う意思の表明だとすれば、パワーダウンはチームとして戦う意思の表明だ。パワーダウンは、支配とつながりのバランスを取る方法であり、自分には相手を第一に考える能力があることを伝え、相手にもそうすることを期待していると伝える方法である。パワーダウンすることで、グループの利益を前進させるために喜んで縁の下で支えるという気持ちが伝わり、相手からも同じ行動を引き出すことにつながる。
実際、チーム全体を管理するためにはパワーダウンの方がいいと考えている人は多い。責任者が下からの情報を必要とする場合や、部下が自分で動かなければ仕事が回らないような場合、あるいは経験豊富な人々で構成されるチームの場合は、パワーダウンのメリットはコストを上回る。