休職・離職を防ぐことが重要な経営課題に
雇用動向調査によると、2017年の全業種の1年間の平均離職率は14.9%となっている。業種によっては離職率が高いところもある。宿泊業・飲食サービス業の離職率は30%、次いで、生活関連サービス業・娯楽業も22.1%と高い。全国平均での離職率はこの15年あまりでほとんど変わっていない。それでも近年、日本の労働生産人口が減少しているため、休職・離職が経営上の大きな課題になってきている。休職・離職した人員の代わりに新しい人材を採用したくても、採用できない時代がきている。
離職率が高い状態が続くと、社員の入れ替わりも多くなる。全国平均の離職率15%というのは、理論上、7年で社員がすべて入れ替わることを意味する。短期間で人がどんどん入れ替わると、業務のノウハウやスキルが蓄積されず、組織としての成長や業績向上につながりにくくなる。これからの時代に企業が成長するには、採用した人材が確実に定着する方策を考える必要がある。そのためには、できる限り部下の休職・離職を未然に防ぐ必要がある。
メンタル不調が増えている理由
うつ病などのメンタルヘルス不調は、極端な長時間労働や明確なハラスメントといった典型的な誘因がなくても起こりうる。うつ病などの精神疾患は治療に時間がかかることが多いため、休職が長くなりやすく、復職した後にも再発が起こりやすい。うつ病患者が完治するまでに必要な期間は平均して2年間と言われている。近年、メンタルヘルス不調が増加しているが、その要因は5つ考えられる。
①仕事を含めた生活全体での情報流通量の増加(IT化)
②単純作業、単純労働の減少(業務の高度化)
③プレイング・マネージャーの増加(多すぎる仕事と責任)
④世代間ギャップ等によるミス・コミュニケーションの拡大(SNSの普及)
⑤不十分なマネージャー教育体制(無意識のハラスメント)
メンタルヘルス対策が遅れている
コンプライアンス対策の中で、企業として取り組むべきことは比較的明確になってきている。働き方改革で最も重視されているのは労働時間の管理や残業削減だが、働く人の健康管理という面では、社員が50人以上の組織では産業医の選任やストレスチェックの実施も、法令で定められている。
日本企業で全体的に対応が遅れているのが、ハラスメントを含むメンタルヘルス対策である。部下、上司、経営者、それぞれの立場の人がメンタルヘルスを学び、組織として対策を進めていくことで、うつ病による自殺や休職・離職は必ず減らすことができる。
メンタルヘルス対策とは
企業のメンタルヘルス対策とは「部下のストレスコントロール」である。
①ストレスの元となるような状況を見直し、改善する。
長時間労働や過重労働があれば見直し、コンプライアンスを守る。さらに働く一人ひとりが意欲を持てる仕事の質や量の見極めや、適正な評価、上司と部下とのコミュニケーションといった要素も重要になる。
②部下のストレスが高まっている状況を早く察知し、「早期発見・早期ケア」につなげる。
産業医や専門家の力を借りて、上司や部下がそれぞれの立場で心の健康について正しい知識を持つことが必要である。また、仕事にまつわる不安やストレスについて部下が相談できる窓口を設けるのも有効な対策になる。
③部下がメンタルヘルス不調により休職が必要になった時に、本人にも職場にも負担が少なくスムーズな休職・復職を実現するため、必要な体制を構築する。
メンタルヘルス対策5つのステップ
①産業医の選任と関係の構築(事業所内の産業保健スタッフ等によるケア)②チームで取り組む体制づくり(産業保健スタッフ+事業場外資源ケア)
③上司・管理職に対する働きかけ(ラインによるケア)
④社員一人ひとりに対する働きかけ(セルフケア)
⑤メンタルヘルス予防の仕組みの全体計画(4つのケア全体)