ユーザー体験が求められる時代
インターネット時代がもたらした大きなビジネスの変化は、作り手と消費者の間のつながり方の変化である。今の時代、ソフトウェアはどんどんSaaS化されている。完成品に対して一括でお金を払うのではなく、月額払いで使用料を支払う「サブスクリプション型」モデルである。サブスクリプション型の大きな特徴は、売り切り型と比べて圧倒的に乗り換えがしやすいこと。そのため、「長く使い続けてもらうこと」が最優先課題になった。
今、企業は、顧客の課題を解決し、使い心地がよく、かつ企業哲学を体現したようなプロダクトとブランドをつくる必要がある。このようなプロダクトとブランドを育てるためには、「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティビティ」の3領域を有機的に結合させる必要がある。この3領域が結合した状態のことをBTCトライアングルと呼び、イノベーションを生み出す組織の理想型と考えている。
BTCトライアングルとは
ハードウェアとソフトウェアを結合させるような新しいビジネスモデルを実現するためには、ビジネス(B)とテクノロジー(T)とクリエイティブ(C)の3領域に存在する組織間の壁をまず取り払い、3つの領域が有機的につながるチームを作らなければならない。この3領域が統合された状態を「BTCトライアングル」と呼ぶ。新しいプロダクトやサービスが生まれる際には、これらの3職種の人間が緊密に連携することが必要である。
まずはデザイナーを交えた組織横断のBTC型チームを作ること。そしてそのチームでビジネスの観点、テクノロジーの観点、デザインの観点を、統合的に思考し、仮説を立てて、プロトタイピング(試作)を通して、その効果を検証するプロセスを実行すること。
そして、プロダクトの市場投入以降、初期の集中的改善フェーズを経て、市場に受け入れられる状態であるPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を実現すること。ここまでを分業せずに、全員が全体像を共有したチームワークで乗り切ることである。
BTCを構成する3つのデザイン
BTCトライアングルを組織で実現するためには、3つの異なるデザインを投入する必要がある。
①クラシカルデザイン(目的:Cに特化)
外見を美しく、使いやすく整えることでプロダクトの魅力を作り上げることを目的としたデザイン。
②デザインエンジニアリング(目的:TとCの統合)
「T」と「C」の統合を図るデザイン。テクノロジー視点とユーザー視点の両方を行ったり来たりしながら、プロトタイピングを駆使することで「課題解決のデザイン」を得意とする。
③ビジネスデザイン(目的:BとCの統合)
ビジネスとクリエイティブの橋渡しとなるデザイン。ビジネスセンスに長けたデザイナーやデザインセンスに長けたビジネスパーソンが持っているスキル領域。その重心は「課題解決のためのデザイン」にある。
これらの3つのデザイン領域は互いに補完的な関係にある。どれを選択するかではなく、状況に応じて適切に重みづけをした上で導入されなければならない。
組織へのデザイン導入の難易度を下げるためには、C型のデザイナーを迎え入れつつ、エンジニアリングとの橋渡しができるTC型の人間や、ビジネスとデザインの間の翻訳ができるBC型の人間を同時に入れることがポイントである。