代表的な2つの競争戦略
①ポーターの競争戦略(SCP戦略)「業界内のライバルと比べて、自社がどのような製品・サービスを顧客に提供していくか」を考える。「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」の2種類に分かれ、どちらを重視するかというポジショニングが求められる。
②リソース・ベースト・ビュー(RBV)
「企業の競争優位に重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(リソース)にある」とする。優れた人材、他社がまねできない技術といった自社の「強み」を磨く事で企業は安定して高いパフォーマンスを実現すると考える。
SCPとRBVの主張は対照的でどちらが有用か議論されてきた。しかし、そもそも両戦略はそれぞれ適用範囲が限定的である。有効は範囲が違うから比較する事に意味がないかもしれない。これを考えるのに競争戦略を考える上での「3つの競争の型」を理解する事が重要である。
3つの競争の型
①IO(産業組織)型業界構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界。「参入障壁が高くて、新規企業が参入しにくい」「大手2〜4社による寡占市場」といった状況である。このIO型競争をしている業界で有効なのが、ポーターのSCP戦略である。なぜなら、SCP戦略はそもそも「競争環境が寡占化に進む方が、企業は安定して高い収益を上げられる」という前提に立った考えだからである。だからこそ、自社はライバルとどのように異なるポジションをとって、競争を避けるべきか等を考える。
②チェンバレン型
参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型。この型では「差別化しながら競争すること」が前提になっているので、その「差別化する力」を磨いていく事こそ、各社が重視すべき戦略になる。従ってこの業界では、技術・人材などの経営資源に注目するRBVに基づく戦略が有用である。
③シュンペーター型
この型の特徴は「競争環境の不確実性の高さ」にある。例えば「技術進歩のスピードが極端に速い」「新しい市場で顧客ニーズがとても変化しやすい」といった競争環境である。
なぜ日本企業の戦略がうまくいかないのか
これまで成功してきた日本企業の業界の多くは、チェンバレン型にあった。例えば家電業界では、ライバル同士が高い技術水準と高機能の製品で競い合ってきた。RBV戦略が有効だった。ところが、海外市場では、高機能製品の競争ではなく「普及品をボリュームゾーンに売る」「交渉力で小売店の棚を確保する」といった事が重要になっている。つまり、競争がチェンバレン型ではなく、IO型に近い。ここで有効なのはSCP戦略であるが、国内でチェンバレン型競争をしてきた日本企業は「割り切ったポジショニング」が得意ではない。結果として、競争の型と戦略がマッチしていないのである。
不確実性の高いシュンペーター型競争では、SCP戦略やRBV戦略は通用しなくなる。この手の戦略は「競争環境が当面変わらない」「顧客ニーズに対応するための自社の強みは当面変わらない」といった前提で立てられるからである。
このシュンペーター型の競争で必要なのは、リアル・オプションを基礎においた考えである。これは「不確実性の高い時には、とにかくまずは少額でもいいから投資をしたり、小ロットでいいから製品・サービスを市場に出して、反応を見る」という考え方である。
競争の型が違えば、求められる戦略は異なる。それを理解せずに戦略を適用している限り、いつまでも「戦略がうまくいかない」のは当然である。
経営学者は「役に立つ」ことに興味がない
経営学が「役に立つかどうか」は、欧米を中心とした経営学者にとっては、重要な関心事ではない。その理由は「ハーバード・ビジネス・レビュー」のような実務家を対象とした雑誌への掲載が学術業績にならない、という制度的な背景もある。しかし、根底にあるのは、学者にとって経営学を探求する推進力となっているのが、彼らの「知的好奇心」だからである。
この分野で「優れた研究」と評価されるには「厳密性」(厳密な理論展開と実証分析)と「知的に新しい」という2つの評価軸がある。これに加えて「実務に役に立つ」も同時に追求できれば良いが、ある役立ちそうな教訓が他企業にも当てはまるのかという厳密性まで同時に追求する事は難しい。
経営学は「答え」を出すものではない
経営学は、それぞれの企業の戦略・方針に「それは正解です」「間違っています」と安直に答えを出せる学問ではない。企業は一社ごとに、直面する事業環境も社内事情も異なるからである。経営学が提供できるのは次の2つだけである。
①理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」
②実証分析などを通じて、その法則が一般に当てはまりやすいかの検証結果
この2つを自身の思考の軸・ベンチマークとして使う事が、経営学の「使い方」である。