かけ離れたものだからこそ組み合わせてみる
世の中には、ほとんどすべての物事に2つの軸が存在する。時に、これらは反発する。両極として対立のポジションをとり、物事が前に進むことを拒む。結果、導き出されてしまう答えは、「足して2で割る」といった妥協点だったり、「どちらかだけ取る」といった諦めだったりする。
本当にそれだけが答えか。その時に「第3の道(サードウェイ)」を歩む。サードウェイは、生きる上で、仕事をする上での考え方であり、思想である。相反する2軸をかけ合わせて新しい道を創造する。
常に心掛けてきたことは「かけ離れたものだからこそ、組み合わせてみよう。離れていた2つが出会ったことをむしろ喜び、形にしてみよう。これまで隔たりがあった溝を埋めて、新しい地をつくろう」ということ。バランスを取るのではなく、新しい創造をする思考だ。
サードウェイのつくり方
両者のいいところを組み合わせて、新しいものをつくる。大切なのは、「何をつくりたいのか?」「何を大切にするのか?」を自分に問い続けること。そして、面倒がらずに手を動かす。これらの試行錯誤を続けることによって、価値は高まり、上昇していく。
大量生産と手仕事のサードウェイ
大量生産と手仕事。この2つはものづくりの世界での対立軸であり、分かれ道である。同じものづくり、同じ商品でも、この両軸に存在する人たちの間には、非常にかけ離れたメンタリティが働いている。
大量生産が可能な国には、豊富な労働人口が必要になる。人が豊富にいるために人件費の抑制が利くので、中国の代替として手を挙げることができる。経済を支える製造業として、スケールと価格競争力をもって成長を目指す。これらの国々の共通点は「中国から流れてくるバイヤーをつかみとる」というネクストチャイナ戦略。国の成長戦略としては、可能性があり、この大量生産型の製造業が牽引して、5%以上の経済成長率になる国々も多い。
しかし、大量生産型のものづくりは、必ずしも底辺の人々の生活を豊かにするものではない。なぜなら、大量生産を可能にするのはあくまで「安価な労働力」にある。給料の支払いが遅れることは日常茶飯事で、労働者のストライキは頻繁に起こる。商品が安く買い叩かれる分、労働者にかけられるコストは厳しく絞られる。
一方で、対称的な「手仕事」には、いいものなのに、需要をつくっても供給できない苦しさがある。「大量生産」と「手仕事」のどちらも明るい未来が描けない。そこでものづくりにおけるサードウェイとは「大量生産型のものづくりと手仕事のものづくりの良い部分を掛け算して組み合わせ、真ん中で生まれる新しいプロダクトをお客様に届ける」というものだ。
大量生産の良い面とは、工場運営、素材調達、素材管理、生産管理、納期管理など、オペレーションに関するすべてのノウハウ。手仕事の良い面とは、オリジナルなものづくり。職人の個性、人間が生み出す手の付加価値。それは最終的にお客様にとって、価値の高いものとなり、市場にとって大きな差別化にもなる。
大量生産と手仕事のサードウェイとは「美しい職人芸を、効率的なオペレーションでつくる」という手法だ。マザーハウスのバングラディシュの工場では、それを実践している。これまで作ってきた4000種類以上のバッグはすべて職人の手でつくられる。手仕事ではあるが、工場では毎月1万個近いバッグを生産している。すべて「いかに手仕事を効率的に行うか」を考えて工場をつくっている。