コロナ禍によって変わる採用活動
コロナ禍で、採用活動において対面状況が難しくなった。もともと採用活動は、説明会であれ面接であれ、対面状況を前提に作られていた。そのため、対面での採用ノウハウは蓄積されている一方で、対面以外での採用ノウハウはほとんど誰も持っていない。
さらに、候補者との関係性がオンライン化しただけではなく、テレワークなどによって、採用チームの働き方がオンライン化したという側面もある。採用には、採用担当者や採用責任者、リクルーター、面接官など、様々な人が関わっているため、メンバー間のコミュニケーションが欠かせない。しかし、日本の多くの企業は、オンラインでのコミュニケーションには不慣れである。
「オンラインツールを使う」ことは、そこまで難しくない。しかし、その根底にある暗黙の価値観を変えることは非常に難しい。今までの「対面を前提とする採用のあり方」自体を転換することには、大きな壁が立ちはだかっている。
対面とオンラインの違い
①「非言語的手がかり」が少なくなる
同じ場所で相対していると、身振りや手振りや表情、視線など、言葉以外の様々な情報を伝えられる。ところが、オンラインでは、それが難しい。
②技術や機器の問題が生じる
参加者がそれぞれの環境でアクセスするため、声が途切れて聞こえない、映像の画質が悪い、インターネットの接続が切れるなどのトラブルが発生する。
③同期性が減る
メールやチャットなどのように、回答が得られるまでのタイムラグがある。候補者をリアルタイムで評価しにくい。
研究によれば、対面のように非言語的手がかりが多い状況では、自分も相手も「伝わった感」が得られる。実際に理解できたかどうかではなく、「相手からの情報を理解できた感覚」がある。逆に、オンラインではお互いに「必要な情報が得られていないのでは」と感じやすい。
オンラインでの採用を進めると、企業側も候補者側もわかった感覚が得られず、いつまでも不安が拭えない可能性がある。今後はリアルとオンラインを組み合わせたハイブリッドな採用をうまく組み立てる能力が求められる。
候補者が受け取る企業情報が減る
採用のオンライン化によって、非言語的手がかりが十分に得られなくなると、候補者が得られる企業の情報が減る。すると、従来から認知され、人気の高い企業にエントリーが集まりやすくなる。
オンラインでは、言葉で説明できない情報や感情、雰囲気などが伝わりにくい。お互いの感情や雰囲気からわかる人柄や社風は、候補者が就職先を決める重要なファクターである。企業側も、人柄や社風に合うかを採用の決め手にしている。
そのため、今後はクチコミや従業員が自分の知人を自社に紹介し、その人を採用する「リファラル採用」が一層効果的になる。クチコミの内容では「道具的な情報」よりも「象徴的な情報」が重視される。
道具的な情報とは、売上や従業員数、待遇、福利厚生などの言語化しやすい企業の事実情報。象徴的な情報は、働きがいやモチベーションの高さ、人間関係の良さなどの抽象度の高い情報である。道具的な情報はクチコミ以外でも得られるため、象徴的な情報の方が候補者にとって貴重である。
オンライン面接のメリット
ある研究によれば、非言語的手がかりが得られにくいオンライン面接での評価は、仕事のパフォーマンスや定着と相関している。オンライン面接の評価が高い人は、自社で活躍する人材である可能性が高い。
対面面接では、以下のバイアスが生じる。
- 第一印象の良さ
- 能力より人柄
- 暗い人より明るい人
- 良い面より悪い面
しかし、オンライン面接では、こうしたバイアスが和らぎ、面接官は候補者が話す内容面に集中するようになる。オンライン面接の後に実行された対面面接の評価が異なる場合は、安易に対面面接で結論をくださないように注意する必要がある。その際に効果的な方法は「なぜ対面とオンラインで異なる結果が出たか」の説明を検討することである。評価の背後にあるロジックを検討することによって、拙速な判断を避けることができる。
オンラインか対面かを問わず、面接においては「構造化」することで見極めの精度を高めることができる。構造化とは、面接の質問内容や評価方法などをあらかじめ決めることを指す。特にオンライン面接では、質問事項や評価方法が事前に設計されていないと会話がスムーズにいかず、候補者は話したいことが話せない。結果として、候補者の企業に対する評価も下がる。