男性育休が重要な理由
現在、日本の人口は加速度的に減少している。2019年の出生数は前年比5万人減の約86万人。1899年の統計開始以来、最少を記録した。政府もこれまで様々な少子化対策を講じてきたが、残念ながら結果はふるわず、人口減少は政府の予想よりも2年前倒しのスピードで進んでいる。
止まらない少子化改善の突破口として、男性育休の普及・促進がある。男性の育休取得を促進する理由の1つは、男性の家事・育児時間が長いほど、第二子の出生率が上がることがわかってきたからである。また、産後の女性を苦しめる「産後うつ」への対策としても、「男性の家庭進出」が求められている。産後うつは出産した女性の10人に1人が発症すると言われるほど身近な問題である。産後1年未満に死亡した妊産婦の第1位は自殺ということも明らかになっている。
実際の男性育休取得率は2020年時点でわずか7.48%と非常に低い数字である。希望者が全員取得できる状況とは言い難く、男性育休はまだ一般的ではないのが現状である。
男性育休にまつわる7つの誤解
日本で男性育休が定着しない要因の1つには、男性育休にまつわる多くの思い込みがあると考えられる。
誤解①:育休で収入がなくなったら生活が立ちいかない
正解 :平均的な会社員なら9割程度の手取り収入が保障される。
現行制度では180日間、月給の67%が雇用保険から育児休業給付金として支払われる。育児休業期間中は雇用保険などの社会保険料が免除されるため、実際の手取り額で比較すると8〜9割の収入が保障される。但し、給付金には月額30万円程度の上限がある。
誤解②:男性が育休を取っても、家庭でやれることは少ない
正解 :乳幼児期に男性ができること、役立つことはたくさんある
新生児は1〜3時間ごとにおむつ交換が必要で、夫が替わるだけで妻は助かる。また授乳も同じ間隔であるし、着替えも頻繁に必要である。新生児のケアが苦手でも、洗濯担当になるだけでも喜ばれる。夜も授乳とおむつ替えでは妻はまとまった睡眠をとることができない。育休中であれば、夜中の子守りも分担できる。
誤解③:共働きの家庭でないと育休は取れない
正解 :専業主婦家庭でも夫の育休は可能
法律では配偶者の性別や就業の有無に関係なく、育休を取得できるようになっている。
誤解④:大企業にしか男性育休の制度はない
正解 :育休は申請すればすべての社員が取得できる
男性育休は企業の大小問わず取得可能であることが法律で定められている。但し、転職して間もない方、契約社員やパート・アルバイトの方は注意が必要である。
誤解⑤:休むのに給付金をもらうと、会社に金銭的負担をかける
正解 :給付金は社会保険料から支払われるので会社の金銭的負担はない
誤解⑥:1年間も休んだら、職場の仕事が回らなくなる
正解 :男性の育休期間は柔軟性が高く、大きな支障が出ない形で取得可能
男性には「パパ休暇」と「パパ・ママ育休プラス」という制度がある。これらの制度は、該当期間中であれば、男性は育休を二回に分けて取ることができ、通常よりも2ヶ月長く育休が取れる。
なお、男性社員で「育休を1年間取得する」というのは極めて稀なケースで、およそ7割は2週間未満となっている。
誤解⑦:一時的にせよ担当業務を引き継ぐと会社に迷惑がかかる
正解 :業務の棚卸や非属人化は経営上大きなメリット
育休取得のための引き継ぎに際しては、業務の棚卸が必要になるため、必然的に日常の各業務の要・不要、あるいは保留などの整理やランク付けがなされる。別の社員がその仕事を務めることで、抜本的な効率化が可能になったり、業務の本来価値が見えてきたりするケースもある。
職場の雰囲気が男性育休を阻む
育休を取得して職場復帰した男性の実際の取得期間は5日未満が約36%、2週間未満と合わせても約71%と、ごく短期間が大多数を占めている。つまり、男性育休の取得期間は2週間以内が標準と言える。
育休取得を希望していた男性社員が、取得しなかった理由の上位3つは以下の通り。
- 業務が繁忙で職場の人手が不足していた
- 会社で育児休業制度が整備されていなかった
- 職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった
男性が「育休を取得しやすい雰囲気がある」割合については大企業・中小企業ともに著しく低く、取得しやすい空気を醸成していくことが育休取得率向上に不可欠であると考えられる。