睡眠危機の時代
現代社会の大部分は、未だに集団妄想のもとで営まれている。睡眠は時間の無駄遣いにすぎない、増え続けるToDoリストをこなして楽しく暮らすにはひたすら睡眠を削ればいい、という妄想だ。「成功は燃え尽きとストレスという代償を払って初めて手に入るという深刻な見当違い、そして、ネット社会による昼夜ない誘惑と要求。この2つが相まって、私たちの睡眠は史上かつてない危機に陥っている。
米国人の平日の睡眠時間はかつて8時間半だったが、この50年で7時間弱まで減っている。また、米国の被雇用者の30%は一晩の睡眠時間が6時間以下で、充分に眠れていないという人は70%近い。その理由の大部分は仕事にある。仕事が常に最優先だという盲信は、高い代償のもとに成り立ってきた。しかもテクノロジーの進歩がそれを悪化させている。今や、誰でもどこへでも仕事を持ち運べてしまう。6時間以下の睡眠で働き続けることは燃え尽き症候群の重大要因の1つだ。
睡眠不足の脅威
睡眠は万人共通だが、「充分な睡眠を取る時間がない」という思い込みもまた万人共通だ。しかし実際には、私たちは自分の裁量で使える時間を、思うよりずっと多く手にしている。鍵は、その使い方を正直に見つけることにある。
睡眠不足の代償は非常に大きい。一晩の睡眠時間が5時間以下になると、すべての死因を合計した死亡率は15%上昇する。死に至らない場合でも、睡眠不足が招く健康の悪化は危険極まりない。1週間の睡眠時間を1時間減らすだけでも、心臓発作のリスクが高まる可能性がある。睡眠不足は免疫系を弱らせるので、風邪などのありふれた病気にもかかりやすくなる。
睡眠不足は私たちの知的能力も奪う。6時間睡眠を2週間続けるだけで、私たちの能力は24時間眠っていないのと同じくらい低下する。4時間睡眠による能力低下は48時間の不眠に匹敵する。
睡眠不足とストレスとの関係も非常に深い。充分に眠らなかった翌日はストレスホルモンであるコルチゾールが上昇する。また、寝不足の影響で働きが鈍る遺伝子の中には、ストレスの処理や免疫系の調整に関係するものも多い。
最近の最も重要な発見の1つは、睡眠中に脳の掃除が行なわれているということだ。マウスの実験で、脳の配管系とも言えるグリンパティック系が睡眠中に非常に活発になり、脳の機能維持に重要な役割を果たしていることが明らかになった。マウスが眠ると脳細胞が縮んで、脳脊髄液が流れる空間が大きくなる。これによって、蓄積した有害物質が洗い流される。この有害物質はアルツハイマー病にも関連がある物質だ。
ヒトでも同様のプロセスが生じている可能性があるという。老廃物や有害物質の洗い流しは睡眠中にのみ生じる。目覚めている時の脳は、様々な身体機能を扱うので手一杯だからだ。脳にこの掃除時間を与えてやらずにいると、単なるメンテナンス不足では済まなくなる。長期的な睡眠不足は脳サイズの縮小と関連性がある。
眠るためのテクニック
睡眠を再び生活に組み込むことは、新しいスキルの習得に近い。成功の鍵は、根気よく練習することと、その過程で自分を励ますことにある。
①光をできる限り少なくし、闇を多くする
②ブルーライトを出す電子機器を就寝前に起動しない
③眠るのに理想的な温度16〜19℃を設定する
④定期的に運動する
⑤カフェイン禁止時間を夕方より早くする
⑥遅い時間の食事を避ける
⑦寝る前のアルコールを避ける
⑧瞑想し、不安や心配事から離れる