オフィスの原形
人が集まり事務作業を行う場所のことをオフィスと呼んできた。仕事に必要な資材(紙や文具、機材資材など)と蓄積してきた情報(文書、書籍など)がある場所に大勢の人(上司や部下、同僚など)が集まり、事業戦略を練り、年間の事業計画に沿って活動し、新たな価値を創り出す。
こうした人と情報を1ヶ所に集中させることによって事務作業を効率的に行うためにできた、オフィスと呼ばれるものは産業革命の後に生まれたと言われる。当時は工場の運営において科学的管理が成果をあげていたことから、オフィスにも働く人に対する徹底的な管理主義が横行。大勢のタイピストが広い空間にずらりと並べられ、上役から監視される中で働かされた。働く人はまるで機械扱いで自由度の少ない人間味が欠落した場所が近代オフィスの出発点で、これは20世紀の半ばまで続いていた。
「オフィス」から「ワークプレイス」へ
ダイナミックな仕事の流れを考えて部署を配置し、周囲の人と自由闊達なコミュニケーションを行ったり、個人が自分の作業に集中できる環境を確保することなどがオフィスの生産性を高めるという、新しいオフィスづくりの考え方が提案された。この時に考案されたオフィスが現在のオフィスの原形で、50年ほどが経過している。当初のガチガチに管理されていたオフィスに比べ、働く人たちの自由度は増し、オフィスの中で自由にふるまえるようになった。
現在は、子育てや介護をしなければならない人を戦力化することや、個人の仕事をより効率的に行うため、さらには社外の人との接点を増やすために、働く場所は従来のオフィスから外に向けて広がりつつある。オフィスにいる時と同じように会社のサーバーにアクセスすることができ、携帯しているデバイスで仕事ができるようになっていれば、オフィスという固定の場所に集まる必要性は少なくなる。メールやビデオレターなどを使えば、時間と場所を共有していなくても、仲間とコミュニケーションすることが可能になっていく。このような、これまでのオフィスとは異なる働く場は、ワークプレイスと名付けられた。
働く場の過去からの移り変わりを見て、気づかされることは、当初、時間も場所も厳しい制約を受け管理・監視されていた働き手たちが、時代を経るに従って徐々に、働く時間も、働く場所についてもその制約を解かれていったという事実である。この流れは今後もさらに勢いを増して進んでいくと考えられる。働く時間と場所が自由になるだけでなく、やっている仕事そのものも変わっていくかもしれない。
「効率」から「創造」へ
単純な事務作業を行う場として誕生したオフィスでは、しばらくの間、そこで行われる作業をいかに効率よく進めるかが重要な課題だった。オフィスの管理法では、無駄を排除するためにできうることを科学的に研究し、運用することの大切さが説かれた。オフィスの中で発生する無駄には、場所(賃料)の無駄と時間(人件費)の無駄の2つがある。場所の無駄減らし策として、背の高いキャビネット、デスクレイアウトを崩さず人が移動する、在席率に応じて人数分のデスクを用意しないフリーアドレスなどの策があった。無駄な時間の削減策には、会議時間の短縮やビデオ会議などが挙げられる。
過去から現在まで、効率を上げるという課題を解決することが繰り返されてきたが、定型的な作業の多くをコンピュータに委ねる時代となった今、かつてに比べれば効率性について云々する機会は減ってきた。効率性にとって代わり注目されるようになったのが創造性である。そこで、オフィスには、様々なコミュニケーション空間が設けられるようになった。