信頼の本質
信頼の核となる意味は、一定の権限を進んで他者に委ねるということである。相手が人であれ組織であれ、拘束力のある契約などで保険をかけたりせず、権限を相手に委ねることである。相手も同じように信頼してくれるとの期待が前提にあるものの、本質的に信頼には危うさがつきまとう。信頼とは、楽観論に立って思い切って飛び込むことなのである。
信頼を築くには3つの条件がある。安心して、確実に自分に代わって行動してもらうことこそが信頼であり、そのためには次の3つの条件が満たさなければならない。
①人格:信頼する相手があなたの利益を自分のことのように大切にしてくれること
②能力:信頼する相手があなたの利益を最大限に実現するための知性・能力・教育を身につけていること
③権限:信頼する相手が約束を守れるだけの権限を委譲されていること
この3つの条件が揃えば、信頼は自然に育まれていく。しかし、1つでも欠けた相手を信頼することは難しい。
信頼の原則
①誠実さを身につける高信頼組織の合言葉は誠実。それもトップから始めなければならない。チーム全員が永続的な信頼で結ばれるためには、リーダーが一途に、ぶれることなく、公私ともに良心に従って生き、能力と善意を両立させ、言葉と行動を一致させなければならない。リーダーの言うこととすることが一致しているかどうかが、信頼の核心である。
②すべての人を尊敬する
誠実な人柄は組織の中に信頼の文化を生み出す土台となるが、リーダーはその信頼を組織全体に浸透させる努力もしなければならない。そのためには、あらゆる人に対して、大小問わず機会あるごとに尊敬を払うことである。何の思惑もなく相手の言葉に耳を傾けることほど、大いなる尊敬はない。
③権限を委譲する
リーダーがチームメンバーに権限委譲しなければ、誠実さも尊敬も生きたものとはならない。尊敬を込めて権限委譲することで、部下はリスクを恐れず創意工夫するようになる。
④目標を具体的に示す
信頼は、期待が明確だからこそ育つ。どうすれば勝てるのか、自分は勝利にどのくらい近いのかを部下に知らせる必要がある。成績評価の基準がはっきりしているから信頼は育つのであり、ものさしがなければ混乱するだけだ。
⑤夢を共有する
同じ目標を共有し、立ちはだかる難問に取り組むことで、メンバーは自然に信頼し合うようになる。共通の夢や成功のイメージが示されないと、やがて来る逆境では、必ず責任のなすり合いになる。
⑥事実をありのままに伝える
信頼を構築・維持していくには、リーダーからのコミュニケーションが不可欠だ。リーダーは事実を、すべての人に、わかりやすく、説得力を持って、完全に共有しなければならない。良い時も悪い時も、ありのままに伝えるのだ。
⑦尊敬して論争する
純粋にアイデアを幅広く募り、より良い解決法を見つけることを目的とすれば、論争は信頼構築を強力に後押ししてくれる。
⑧謙虚さを忘れない
高信頼リーダーは従業員を導き、資産を守り、意思決定を導く代理人としての役割を大切にする。そして組織を存在せしめている価値観とビジョンを守り抜く。そのために必要なのが謙虚さである。
⑨相手も勝つ交渉をする
強い信頼で結ばれた人間関係がすべてそうであるように、絶えずギブ&テイクを心がける。
⑩慎重にルールを守る
人格・能力・権限の3条件を十分吟味した上で信頼するなら、裏切りの恐れも低くなる。3条件をチェックすることによって、誰を信頼すべきかがわかる。優れたリーダーは、信頼の原則を守り、慎重かつ賢明に権限委譲を実行していく。