パラノイア(病的なまでの心配症)だけが生き残る
ビジネスの世界において、パラノイアでいることには十分な価値がある。事業の成功の陰には、必ず崩壊の種が存在する。成功すればするほどその事業のうま味を味わおうとする人々が群がり、次々に食い荒らし、最後には何も残らない。だからこそ、経営者の最も重要な責務は、常に外部からの攻撃に備えることであり、そうした防御の姿勢を自分の部下に繰り返し教え込むことだ。
パラノイアのように神経質になってしまうことは色々ある。製品に問題がないか、発売時期を誤ったのではないか、工場は計画通りに稼働しているか、工場の数が多すぎはしないか、適任者を採用しているか、士気が落ちていないか。もちろん競合企業の動きも気になる。しかし、こうした懸念も、戦略転換点と呼んでいるものに比べれば大したことはない。
戦略転換点とは
戦略転換点とは、企業の生涯において根本的な変化が起こるタイミングである。様々な力のバランスが変化し、これまでの構造、これまでの経営手法、これまでの競争の方法が、新たなものへと移行していく点である。
その変化は、企業が新たなレベルへとステップアップするチャンスであるかもしれないし、終焉に向けての第一歩ということもありうる。戦略転換点は事業のあり方を全面的に変えてしまうので、それまでのように新技術を導入するとか、競合との争いを激化させるといった方策だけでは十分対応できない。変化をもたらす力は音もなく静かに蓄積していくため、何がどう変わったのかは見えにくい。ただ「何かが変わった」ということだけがわかる。この戦略転換点を見過ごすと、企業にとっては命取りになりかねない。
「10X」の変化
企業の競争力を分析する場合、そのほとんどは変化のない状況下でのものだ。力の1つが、例えば10倍もの規模に増幅されたとすれば、従来の競争力の分析では企業がどう動くかを理解する何の助けにもならない。企業の競争状態を決定する力には、次の6つがある。
①既存の競合企業の体力・活力・能力
②供給業者の体力・活力・能力
③顧客の体力・活力・能力
④潜在的競合企業の体力・活力・能力
⑤生産やサービス提供の方法が変わる可能性
⑥補完企業の体力・活力・能力
事業基盤の要素に変化が起き、それが桁違いの規模になっていくと、予測はことごとく裏切られることになる。1つの競争要因はやがて熾烈な競争を生む力へと変わる。この6つの力のいずれかが大きく変化することを「10X」の変化と呼ぶ。「10X」の力に遭遇すると、もはや自分の運命をコントロールできなくなる。企業にとって未経験のことばかり起こり、そうなると従来の方法ではとても対応しきれない。この時期をどう乗り切るかで将来は決まる。
戦略転換点を見分ける方法
企業はどのような変化にも対応していかなければならないが、全部が戦略転換点というわけではない。ある変化が戦略転換点を示すものか、見分けるためには、次のような問いを発してみることだ。
・主要なライバル企業の入れ替わりがありそうか
・今までの大切な補完企業が入れ替わろうとしていないか
・周囲に「ずれてきた」人はいないか
組織の中に、迫り来る変化にいち早く気づき、前もって警告を発する人たちがいれば、頼もしい存在となってくれる。こうした人たちは、社内のどこにでも存在するが、中間管理職で、営業部門で働く人間であることが多い。彼らは大抵、近づきつつある変化について経営陣よりも多くのことを察知している。彼らは社外で動き回り、現実世界の風を肌で感じているからだ。