働く人の満足や喜びにつなげる
経済産業省の定義によると、人的資本経営とは「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」である。2023年から大手企業に対して人的資本の情報開示が義務化されたこともあり、人的資本経営の考え方は急速に浸透した。
現実問題としても、少子高齢化による労働人口の減少、社会認識の変化や価値観の多様化、コンプライアンス意識の高まりなど、人の活かし方をめぐる企業の姿勢も大きな変革が求められている。こうした社会情勢の中、人を成長資本としてうまく育て、活かしていくことができない企業はこれからの時代を生き抜いていくことができない。
ただ「人は資本」と言う考え方には注意しなければならないことがある。人のスキルや経験、意欲、興味といったものは、すべて目に見えない。この見えないものを資本とみなすには、なんらかの方法で可視化する必要がある。しかし、可視化して開示することばかり意識しすぎて、それを目的にしてしまってはならない。
人を資本と捉える上で一番大切なのは「働く人の満足や働く喜びになっているか?」という視点である。この視点が欠けていると、本当の意味での「人を資本とする経営」にはならない。例えば、給料は必ずしも満足要因とは言い切れず、他者との比較で不満足要因になることもある。その点、仕事にやりがいを感じていたり、信頼関係の中で成果が出せたという充足感や達成感は、他の人との比較で満足感が失せてしまうことはない。
人を資本とする経営戦略で見落としてはならないのは「今の仕事が好き」「この環境はワクワクする」「自分の実力をここでもっと発揮したい」と言う気持ちを社員に持ってもらえるようにすること。そういう魅力的な組織にできているかどうかである。
ただ人に投資する施策を行えばいい訳ではなく、知識、スキル、資格など身につけた力を「この会社で活かしたい」と思えるようにすることが肝心である。
ヒト輝かせ資本経営の3つの柱
今は生産性を上げたいから人をどんどん採ろうと言う時代ではない。新たに人を採用するために労力や費用をかける以前に、今いる人たちの仕事に臨む姿勢が変わるように工夫することのほうが重要である。こういう意識の下で「ヒトが活きる場づくり、ヒトが輝く組織づくりをしよう」というのが「ヒト輝かせ資本経営」の考え方である。
「ヒト輝かせ資本経営」では、ヒトを輝かせるために重要な要素として、3つのキーワードを掲げ、施策を行う。
①「ワクワク」を集める(ヒトワクワク資本)
自分の好きなことや楽しいことをしている時は、誰でもワクワクしている。自分の内側からワクワクした気持ちが湧き上がる状態は、人を動かす原動力である。そこで、内発的に意欲と行動を掻き立てるような「ワクワク」要素を集め、増やすことで、社員のモチベーションアップを図る。
- チーム単位での活動「Happy Unit」
業務を行っている組織体系とは別軸で5、6名からなるユニットを構成し、チーム内で意見交換しながら、会社をよりよくするための改革案、改善活動を提案・実行する取り組み。Happy Unitでは普通に仕事をしているだけでは知り合わない色々な人とのつながりが増え、絆ができていく。 - 様々なアワードへの参加
挑む目標ができると、そこを目指して社内のやる気が盛り上がる。結果としてなんらかの賞が取れると、自信につながる。
②「つながり」を増やす(ヒトつながり資本)
仕事は、チームの仲間、社内・社外の協力者、取引先など、たくさんの人と関わり合う中で成立する。他者とのつながりによって安心感が湧いたり、共鳴・共感できたりすることは、個人の働くモチベーションを高める。そこで、異なる立場や関係性の相手とも自然につながりを持てる機会を増やし、縦、横、斜めに色々な関係性のつながり網が築けるようにする。
- 社内イベント
各種の社内イベントも社員同士が接点を持ち、相手のことを知るきっかけになり、フラットなつながりを増やしていくための「場」になる。
③「環境」を整える(ヒト環境資本)
人間関係と共に労働意欲に大きく関係するのが職場環境である。日常的に前向きな明るい気分で仕事ができる場になっているか、成長のための学びの場はあるか、といったことも大事な要素である。快適で働きやすく、社員が成長できるような土壌、環境づくりのための施策を整備する。
- つながりボード
KPIをまとめたダッシュボードを作り、誰が何をやっているかが一目でわかるようにする。毎朝15分の朝会で、全員で進捗状況、それぞれの負荷状況、抱えている課題、タスクの滞留を確認する。 - 全社員アンケート
半年に1回、匿名でトップに言いたいことを自由記述式で書いてもらう。寄せられた意見は一覧化し、色付けして公開する。 - 学びのための研修・講座を設置