余剰人員は攻めの切り札
人件費は経営を圧迫する経費ではなく、会社を成長させていくための必要な投資である。人材は決して、コストカットの際の便利な道具ではない。会社が「攻め」に転じた時の切り札である。
倉庫のサブリース事業を手がける大倉は、いくつも新規事業に打って出た。挑戦できるのは、普段から余剰人員を豊富に抱えているからである。余剰人員を備えておけば、人手が欲しい時、新規に採用したり、戦力を育てていく手間を削減できる。会社の理念や考え方を1から指導するタイムロスも、ほとんどゼロにできる。
1つの仕事だけでなく、フレキシブルに活躍できるのが余剰人員の魅力である。育成した力と意欲が組み合わされば、人材は会社のどの部門に行っても通用する。柔軟な能力づくりのためにも、普段から意見の通りやすさを維持しておくことは大切である。
躍進していくためには、すべての事業のスピード化を図らなければならない。危機時を想定したリスクヘッジも欠かせない。その2つを支えるのが、余剰人員の確保になる。有望な新規事業が立ち上げられたとしても、そのタイミングで人材募集しているようでは遅い。欲しい時に欲しい人がいくらでも採れるのは、限られた大企業だけである。
余剰人員を「育成枠」として育てる
余剰人員を抱えておくことは、コストがかかる。一人前未満の人材を自分たちで育てないといけないため、時間をかける覚悟も辛抱強さも必要である。人は磨けば必ず伸びる。正しく育てれば必ず力がついて、いい仕事をしてくれるようになる。意識も価値観もポジティブに変わる。
大倉では人材の適性や能力を鑑みてレベルを5段階に分けている。それを人材評価の基本の指標として採用や人事に活用している。
人材評価1:社会人の基本的な能力が不足している
- 普段の挨拶も受け答えが怪しい
- 採用は難しい。育成枠で抱えることも検討しない
人材評価2:社会人の基本的な能力は一応備わっている
- 相手の目を見て挨拶できる
- 採用は面接で検討、調整。育成枠で会社に抱える候補
人材評価3:事務・法律・企画・ITなど、社会人の基本のスキルが備わっている
- コミュニケーション能力が高い。各部署の即戦力。
- 面接では積極的に採りたい。幹部候補にもなりうる
人材評価4:事務・法律・企画・ITなど、スキルはすべてプロフェッショナル
- 対外的な交渉や折衝だけでなく、チーム管理もできる
- 面接では優先して採る。マネージャー及び幹部候補
人材評価5:すべての社会人のスキルが、エキスパート
- 大組織のマネジメント経験者
- 個人で億単位のプロジェクトを採れる人脈がある
- 経営戦略に詳しい。社長を任せられる
採用を考えられるのは評価2からで、会社の育成枠=余剰人員に入る。評価3の人材は有名大学を好成績で卒業している新卒上位学生か、企業での一定の業務経験者が多い。評価4と5の人材はかなり稀少で、大手企業にも人数は限られていて、20代の若い社会人にはほぼいないかもしれない。中小企業が募集をかけて、採用面接に来てくれるのは9割が1〜2、ごくまれに3の人材がいたらラッキーというのが実情である。
人材評価2以上で「やる気」「素直さ」が備わり、スムーズな会話ができる人は無条件で採用する。中小企業は人材評価2以上の人を採用して、指導担当の上司が評価2.5〜3以上に成長できるよう教育すること。余剰人員を育成枠として抱え、来るべき時機に戦力となる評価3以上に育てていく戦略で戦っていくしかない。
自責思考で人材は伸びる
育成で伸びる人の一番の特性は、シンプルに素直なことである。認知バイアスがなく、他人の意見をよく聞けて、改善する意欲が高い人は必ず伸びていく。学力や基礎的な能力は、関係していない。むしろ素直でさえあれば、基礎的な能力の大部分はカバーできる。
逆に育成で伸びない人は素直ではないこと。何事も自分の責任に置き換えられない「他責思考」の持ち主である。そういう人は評価3以上でもなかなか採用できない。「他責思考」の人は、なまじ頭が良かったりするので、自分の未熟さを周りの人や環境、運の悪さにうまくすり替え居直っている。
自分に責任を置き換えられる姿勢を整えた人は必ず伸びる。早く会社の戦力にもなる。「自責思考」であれば、クリアすべき課題の解像度が上がる。上司になって育成をする側も、まず若手の「他責思考」を改めることに努めることである。
人材マネジメントを成功させるヒントは「引き上げる」という意識である。指示通りに動いているだけでは、人材の本当の能力が上がらない。自分で考える機会をちょっとずつ育成枠の人材に与えること。質問があった時に「どうしてそう思う?」とか、対処の決定権を委ねて考える機会を持たせる。仕事に対して、自分で責任を持つという思考づけの促進が、「引き上がる」ことにつながる。