持続的なマーケティングには組織力が必要
マーケティングのノウハウは重要だが、そのノウハウを「実行できる組織」を同時に構築できなければ、業績を継続的に向上させることはできない。策を立てるよりも実行する方が100倍は難しい。
組織とは「一人一人の能力を引き上げる装置」である。ある人が、一人でいる時よりも遥かに大きな力を発揮する。人の強みを引き出し、人の強みを組み合わせてボトルネックを消す。それが強い組織で、それこそが組織をつくる意義である。
組織は「機能の鎖」として捉えられる。ある目的を達成するために集められた一連の「機能の繋がり」のこと。その主な機能は以下の4つしかない。
①マーケティング機能
②ファイナンス機能
③生産マネジメント機能
④組織マネジメント機能
マーケティング革命とは組織革命である
マーケティングのノウハウだけでは会社は動かない。マーケティングを機能させるには、会社としての最低限の「マーケティング・システム」の構築が必要である。そして、その他の3つのシステム「ファイナンス・システム」「生産マネジメント・システム」「組織マネジメント・システム」も連動できるように体制を整える必要もある。
商品開発機能(基礎研究を除くR&D機能)は生産システムではなく、マーケティング・システムの中にあるべきである。消費者視点で全社連動させるカギは、マーケティング戦略の下で商品開発を機能させることである。
マーケティング部門と商品開発部門をつなぐ
多くの企業では、マーケティング部門と商品開発部門が分かれている。いずれも、マーケティング・システムとして欠かせない機能であるため、どこかで連動して繋がらなくてはならない。この2つをブリッジする強力な役割を誰かが担っていないと会社は勝つことができない。
「消費者」と「プロダクト」は双極性の関係にある。プロダクトは技術を練り回したら出来上がるのではない。「消費者」という存在がなければ、プロダクトは価値が定まらないので存在できない。その逆も同じである。消費者と商品は双極性なのに、それぞれを切り分けて組織を完全に分断すると、それぞれが部門の使命を果たせずに終わるように組織構造をつくってしまう。そこで、「消費者⇔プロダクト」という双極性の関係を機能させることに責任を持つ、社長ではないもう1つの役割が必要になる。その役割をUSJではCMOとして設定し、マーケティングも商品開発部門も、それぞれがCMOにレポートするようにして、劇的に変わった。
自己保存の本質を制御する
望ましい組織は、それぞれの専門性に対して職責とセットで権限を持たせる「人体のような組織」である。そのような組織では、テーマに応じて誰が何を決めることができるのか役割が明確で、程度の大小はあれ各部門や下から上までの個人が、何らかの自分の意思決定権を持つことになる。
人間の本質は現状維持であり、自己保存である。誰しもがそういう本能を持っている。そのため、個人に委ねて放っておいたら、それぞれが折り合いのつく居心地の良い場所を探してそこで安住しようとする。そういう人間を束ねる組織は、常に変わりゆく市場に適応できずに滅びる。その個人と組織の利害を「衝突」から「一致」にどうやって構造的に変換するか。
組織づくりの本質は、「自己保存の本能を逆手に取ること」である。その方法は主に2つ、「アメ」と「ムチ」である。「マーケティング・システム」「意志決定システム」「評価報酬システム」の3本の釘に集中して、社員の自己保存と会社の目的を、しっかり一致させることが重要である。