外に飛び出すことが重要
現在の自分の慣れ親しんだ世界(コンフォートゾーン)からゴーアウト(外に向かって出ていくこと)すると、思いもよらない「何か(イノベーション=新結合)」が生まれる。その結果、自分のキャリアが広がっていく。そして、それがこれからの不確実で変化の激しい社会を生き抜くための唯一の方法である。
そのための前提となるのが「T型人材」と言われる、ジャンルなどを飛び出して活躍する人である。ある1つの分野を極め、専門的な知識や知見、経験、スキルを持つだけでなく、他の分野にも優れた知見を持つ人材が「T型人材」と呼ばれている。
「T型人材」の原型となる考え方は『両利きの経営』に書かれている。両利きとは、右手も左手も遜色なく自由に使える状態を意味する。企業における両利きとは「探索」と「深化」が高次元でバランスしている状態を指す。なるべく従来の自分自身や自分の会社の認知の範囲を超え、遠くに認知を広げていこうとするのが「探索」である。ところが、この探索はリスクが高く、コストがかかるのが一般的である。
一方で、探索を通じて探し当てたものの内、成功確率が高そうなものを深掘りして磨き込む行為を「深化」と呼ぶ。企業は、どうしても深化を重視し、リスクとコストがかかる探索を敬遠しがちである。深化に偏ることなく、探索と深化がバランスしている状態こそが、継続的な成長を実現する。感覚的には「深化70%」「探索30%」のバランスが最適である。
個人がT型人材になる上でも、「両利き」が生きてくる。多くの人は、専門性を深掘りする深化を重視するが、自分の専門領域の外に出る探索をおろそかにしてしまう傾向がある。深化の領域に偏るのは、リスクがないように見えてかえってリスクが高くなってしまう。
これに対して、探索は、コンフォートゾーンを出ていくため、リスクがある。心理的に不安な状態に置かれ、予測できないことが起こるためにミスを犯す。努力しても、必ずしも成果が出るとは限らない。しかし、探索していくと、これまでに経験したことがない出会いに恵まれ、何らかの新しいものを生み出す未来につながる。そのため、将来的な大きな成功の確率が上がる可能性が高まる。
企業に所属するビジネスパーソンの場合、ゴーアウトして探索することなく深化にばかり偏っていると、その会社では通用しても、広く世界に目を向けた時に全く通用しない人材になってしまいかねない。
ゴーアウトするための方法
私たちは、元々備わっているゴーアウトする資質を改めて意識し、興味を持った人と友達になる努力をするといい。それまで全く知らない人に会う訳なので、何らかの伝手がない限り失敗するのは当然である。しかし、「自分は無名だから会ってもらえない」と考えることこそ、コンフォートゾーンに安住している証拠である。そこからゴーアウトしない限り、会いたい人に会えることは決してない。
もちろん、会いたいからといって実際に会える確率は3割かもしれない。それでも10回会おうと行動した中で3回でも会えるとしたら、それだけで十分ではないか。自分の興味関心を人に言って回ることは重要かもしれない。色々な人に言っていると、会いたい人につながっている人が出てくることがよくある。
では会いに行って何を話せばいいのか。話題の内容よりも、全く知らない人と1時間話せる能力が問われる。その相手がどのようなことに興味を持っているかわからないので、会ってすぐに双方が話せる話題がなければ会話が続かない。そのため、どのようなボールが来ても打ち返せるだけの引き出しを用意しておくことが大切である。それは読書であり、数多くの経験値であり、ゴーアウトして常に深く考える癖をつけておくことから得られるものである。まずは、自分についてのプレゼンができることが最低条件と言える。
ゴーアウトして新しい人に出会い、探索して得たものと自ら深化させたものが出会い、結合し、新しい何かになる。離れたところにある知と知が結びついた時にイノベーションが起こる。その結合によって新しいものを生み出す可能性を高めるのは、意外な人に会いに行くことから始まるのではないか。
ゴーアウトは、余裕があり幸福を感じていないとできない。それは実験によっても明らかになっている。失敗するのを恐れるのではなく、いつも成功するとは限らないという余裕を持って臨むといい。たくさん失敗するということは、たくさんゴーアウトしたということ。まずゴーアウトした自分を褒め、数打てば当たるという余裕を持って考えればいい。