両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

発刊
2019年2月15日
ページ数
411ページ
読了目安
586分
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「イノベーションのジレンマ」の解決策
イノベーション研究の最重要理論とされる「両利きの経営」の解説書。成功の罠にはまったリーダーはいかに行動すべきかという指針が示されています。

イノベーションのジレンマの解決策

破壊的イノベーションに対応するには、成熟事業で成功する組織を設計すると同時に、新興事業でも競争しなくてはならない。

成熟事業の成功要因は漸進型の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行だが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性だ。その両方ができる組織能力を「両利きの経営」と呼ぶ。「イノベーションのジレンマ」を克服する真の鍵は、両利きの経営にある。クリステンセンは「組織は破壊的変化に直面すると、探索と深化は同時にできないので、探索にあたるサブユニットをスピンアウトしなくてはならない」と主張している。しかし、過去と未来とが断絶されていると、新規部門の足を引っ張って成功を阻み、往往にして身動きのとれない状態に追いやってしまう。既存組織に活用すべき資産があるならば、探索を担当する組織にもそれが利用できるようにしなければならない。

必要なのは、ターゲットを絞り込んだ統合、新規事業に対する経営上層部の強力なバックアップ、組織全体のアイデンティティをはじめとする、より高度な分離である。

両利きの経営

変化に直面した組織が生き残るには、リーダーは相矛盾する2つの重要なことをやってのけなくてはならない。

①深化
継続的な漸進的なイノベーションや変革を通じて、既存の資産と組織能力を深化すること。

②探索
既存の資産と組織能力が新規参入者に対する競争優位となりうる新しい市場や技術を探索すること。

その際に問題になるのが、競争の激しい成熟事業では成功するだけでも大変な上、経営陣の資源や注意をそっくり奪われやすいことだ。新しい事業やビジネスモデルは、既存事業ほどの売上高や利益率につながらないと見なされることが多い。そして、選択する場面になると、深化に過剰投資し、探索に過小投資する傾向が見受けられる。

組織のリーダーは既存事業の成功を深化させながら、既存の組織能力を活用して新市場を探索する両利きの経営を行って初めて、長期の成功がもたらされる。

探索と深化とでは、求められる組織的な調整や組織能力が根本的に異なる。企業が成熟市場で勝つために必要なことは、新しい市場や技術に必要なこととほぼ正反対といってもよい。さらに悪いことに、深化で成功すると往々にして、探索がうまくいかなくなる。この根本的原因は、組織的な調整力ならびに構造上や文化的な惰性に概ね関係している。新規の事業や戦略で新しい調整が必要になった時、従来の成功してきた物事の進め方のせいで新しいやり方が骨抜きにされかねない。短期的には、現状維持のためという口実は、大抵説得力を持っている。

両利きになるための要素

両利きの経営でイノベーションを増強促進し、成功させるためには次の要素をすべて組み合わせることが必要である。

①明確な戦略的意図
探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図。探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることも含まれる。

②経営陣の保護や支援
新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護すること。

③対象を絞って統合された適切な組織アーキテクチャー
ベンチャーが独自に組織構造面で調整を図れるように、深化型事業から十分な距離を置くとともに、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを注意深く設計すること。これには、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、あるいは、組織に再編入するかに関する明確な判断基準も含まれる。

④共通の組織アイデンティティ
探索ユニットや深化ユニットにまたがって共通のアイデンティティをもたらすビジョン、価値観、文化。こうしたものがあると、全員を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持つのに役立つ。