AGELESS 「老いない」科学の最前線

発刊
2022年11月30日
ページ数
408ページ
読了目安
666分
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ヒトはいずれ老化を克服できるようになるのか
生物における老化は必然ではなく、コントロールすることができる。老化を治療する研究の最新事例から、研究によってわかっている老化の仕組みまでをわかりやすく紹介している一冊。
現時点で、寿命を伸ばすために効果的な方法から、将来的に老化を治療するコンセプト、将来性が考察されています。

なぜ生物は老化するのか

動物は単純な熱力学には縛られず、自己修復できるように進化した。細胞やその構成要素、分子が損傷したり、はがれたりした時に、私たちの体は残留物を輩出して、全く新しいものに置き換えている。ではなぜ動物の進化は、無限に完全な状態が続くまで自己修復の効率性を高めなかったのか。

 

進化は「適者生存」だと言われるが、生存よりもっと重視されるのは「生殖」だ。進化上、生命体が死ぬまでに優先するのは子孫を残すこと。動物たちは生涯を通じて生殖するが、大多数の生殖は若いうちに行われる。なぜなら、老齢に達する前にはほとんどの動物が死んでしまうからだ。若い方が生きて遺伝子を次の世代に残せる可能性が高い。そのため、歳をとってから生殖のチャンスが増える変異にはあまり意味がない。進化は老いた動物を改善する方向には働きにくいのだ。

老化は進化の手抜きである。老齢で悪い影響を及ぼすが、進化が排除できなかった変異の蓄積、若い頃に生殖を最大限成功させるが、その後意図せざる不幸な展開を見せる拮抗的多面発現性、使い捨ての体細胞を維持することより子をもうけることを優先させるメカニズム、これらすべての結果である。

 

地球上には、信じられないほど様々なペースで歳をとる動物たちがいる。最も短命な成虫はカゲロウの一種で、メスが卵を産んで死ぬまで約5分。一方、最も長命な脊椎動物はニシオンデンザメで、最高齢のメスは推定400歳だ。

こうした寿命の違いは、様々な動物ごとの年齢の生存率と生殖の重要性の組み合わせによる。進化はカスタムメイドで、その結果の幅は凄まじく広い。

 

老化は変更不可能な生物学的必然ではない

多様な動物について、食餌制限するだけで、老化に関連した病気を1つではなくすべて防ぎながら、体力低下や死をも遅らせることができる。進化の過程で生き残ったのは、栄養状態が厳しい時に、より多くの資源を体の修復に分配してきた動物だ。その体内では、徐々に細胞が壊れていく「老化プロセス」のスピードが遅くなる。そしてまた食料が増えれば、生殖が優先され、老化スピードは元に戻る。

 

食餌制限の実験から明白なのは、老化は避けられないプロセスではないということだ。動物の老化スピードは、このシンプルなプロセスの介入によって変わる。

 

老化を遅らせる研究

老化の特徴のいくつかは、歳とともに体に溜まり、病気や機能不全を引き起こすというシンプルなものだ。そのパターンは次の3つであり、これらを発生源で取り除くことが、最も明快な解決法である。

  1. 歳をとると徐々に増えていく老化細胞
  2. 細胞内をうろつき、その機能をゆっくりと低下させる欠陥タンパク質やガラクタ物質
  3. 細胞内外に溜まって心不全から認知症までを引き起こす、折りたたみ不全のタンパク質「アミロイド」

 

・老化細胞除去薬

メイヨー・クリニックの研究チームは、自殺抑制遺伝子の働きを妨げる薬品が老化細胞を殺す能力をテストし、がんの化学療法薬である「ダサチニブ」と、果物や野菜に含まれ、栄養補助食品としても摂取されるケルセチンを組み合わせ史上初の「老化細胞除去薬」を作った。実験で高齢マウスに投与した結果、マウスは生物学的に概ね若返った。老化細胞除去薬は、2019年に人間での臨床試験が既に始まっている。

 

・ラパマイシン老化防止効果

オートファジーは、壊れたタンパク質や損傷を受けたミトコンドリアなどを一掃してリサイクルする、細胞の「自食作用」のプロセスだ。オートファジーの減少がおそらく老化プロセスの中心的役割を果たしている。食事制限は、オートファジーのレベルを上げる手段だが、それと同じ機能を活性化させる薬が「ラパマイシン」だ。

ラパマイシンは強力な免疫抑制剤であり、しかも細胞の増殖を抑える。ラパマイシンは、パーキンソン病やアルツハイマー病のモデルマウスの脳内の細胞死を遅らせ、認知能力を改善する。但し、ラパマイシンには感染症リスクを高め、糖尿病にかかりやすくなる副作用がある。ラパマイシンの研究から、糖尿病の治療に使われているメトホルミンにも食餌制限模倣の効果が発見され、臨床試験が始まる。

 

若返らせる研究

私たちは病気の抵抗力の高め方だけでなく、老化による生物学的衰えを若返らせる方法を探さなければならない。

 

・幹細胞治療

幹細胞治療は医療の最新分野の1つであり、幹細胞を治療に活用すれば、老化治療の最大の武器になりそうだ。幹細胞は老化と共に失われる細胞を補充し、加齢による失明や糖尿病やパーキンソン病の予防に役立つだろう。

一番実現が近い幹細胞両方は、加齢黄斑変性症治療だろう。2018年の臨床試験では安全性だけでなく、その治療効果も証明されている。次のステップは、iPS細胞でもポジティブな結果を出すことだ。

 

老化をリプログラミングする

生物学的老化を実際に治す最後のステージは、ほぼ間違いなく、問題のあるプロセスがそもそも起きないように、自然が与えた私たちの自身の生物学的仕組みをハッキングして、プログラムし直すことになる。生物学的「プログラム」は遺伝子に書き込まれているので、リプログラミングには遺伝子を編集して良いものを最適化し、悪いものを減らし、細胞や器官に新しい能力を加えることが含まれる。

 

進化によって配られた手札を、遺伝子編集を用いて最適化できるようになるのもそう遠くはないだろう。細胞のリプログラミングを単に培養皿の細胞の時間を巻き戻すことではなく、全身に適用することさえ可能になるかもしれない。

参考文献・紹介書籍