将来像と現在の自分を比較し、目標達成に必要なものを逆算で考える
スポーツの大きな大会の試合前のインタビューでは、一流の選手であればあるほど「明日は自分の持っている力を出し切るだけです」などと、冷静に答えている。これは頂点まで上り詰めたアスリートが、「自分がコントロールできるのは自分だけで、それが勝利に最も必要なこと」ということを知り尽くしているからである。自分がコントロールできることに集中するしかないと体験から学んでいるのである。この考え方を「縦型比較思考」と呼ぶ。
他人と比べ成績が悪いと思ったり、反対に他人よりできたと喜んだりするのは横型比較である。それに対し縦型比較は、比較する対象は周りではなく、なりたい将来の自分である。将来の最高の姿をイメージし、その最高の姿に対して現在の自分がどのような状態なのかを把握し、自分の最高の姿に近づくためにはどうしたらいいかを常に考える。
世界で戦う一流のアスリートは、勝利や敗北の経験から、勝利をつかむ最大のカギは自分の能力を最大限に発揮することで、そのためにはコントロールできない相手などに意識を向けエネルギーを費やすのではなく、自分のコントロールできることに集中することが大切だということを知っている。
自分の最高を引き出すためには縦型の思考をすることが重要だが、自分の最高の将来像を描くだけではそこに到達できない。まずは将来像と現在の自分を比較し、何がどれだけ必要かを明確にする。将来像から逆算で今の自分を見てみると、本当にやらなくてはならないことが見えてくる。
但し、自分の最高の将来像を可能な限り明確にイメージすることは簡単なことではない。そこで横型比較の考え方を活かす。その分野で活躍している人と自分を比べる中で、本当に自分が目指す姿がどんな姿なのかが考えられるようになる。自分より先に様々なことを経験し学びを重ねている人の話をたくさん聞くことで、今の自分の視界にはない将来像が見えてきたりする。
苦手なことも演じ続けることでコントロールする
縦型比較思考で理想とする自分の将来像を描いていくと、その姿と現場の自分とのギャップが見えてくる。理想の自分の姿に近づこうとすると、それまでの自分のままでは壁を乗り越えられないということが起こってくる。そんな時、役に立つ考え方の技術が「役割性格」である。
役割性格とは、苦手なことであっても自分が演じる役割だと考えてトライすることで、新しい自分の姿を生み出すことである。スポーツ心理学の見地からは、次の3つのステップで役割性格のトレーニングをする。
- 自分自身をしっかりと知る(見える化)
- 自分がコントロールできることを整理する
- なりたい自分像を演じる(俳優力)
長期的に自分の最高を引き出すためには、まずは自分自身をしっかりと認識した上で自分がコントロールできることをしっかりと把握し、今はまだコントロールできないことでも縦型比較で考えた自分の将来像に必要なことであれば、コントロールできるようになることが必要である。
この「今はコントロールできないけれどもコントロールしたいこと」が見つかった時こそ、役割性格を使う時である。役割性格を意識して使ってみることで、新しい世界が広がる。
大きな目標と小さな目標を設定し、モチベーションを維持する
目標が高ければ高いほど、その目標と今の自分のギャップを感じ、諦めの気持ちが生まれてしまう。そうならないために、目標は常に同時に2つ持ち続けるといい。これを「ダブルゴール」という。トップアスリートたちは、目標を上手に使って自分自身のレベルアップを図っている。
ダブルゴールの基本的な考え方は、目標を2つ持つことで、諦めずに目標を達成しやすくすることである。具体的には、大きな目標と小さな目標、最高目標と最低目標、結果目標と行動目標のように対となる2つの目標を作る。
大きな目標を設定することの意味は、モチベーションや大きなエネルギーを喚起することにある。そのため、ワクワクするような目標にする。しかし、大きな目標だけではその実現までの道のりが遠いだけに、日々目標に頑張っていたとしても、どれだけゴールに近づいたのかもわからず、やがてモチベーションが下がり始める。だからこそ大きな目標から逆算して小さな目標を設定することが重要である。
小さな目標は自分のスキルに対して高すぎたり、低すぎたりするとモチベーションを保つことが難しくなってしまう。そこで、目標設定の精度を高めるために必要なのが「CSバランス」という考え方である。チャレンジ(Challenges)とスキル(Skills)のバランスを見ながら、「簡単にはできないけれどなんとか頑張ればギリギリできるかもしれないこと」「今、できるかもしれない精一杯のこと」という絶妙なポイントにその時々の目標を置いていくことが重要である。