真実を伝えることが組織の力を伸ばす
ビジネス構築において、「真実」は決定的な競争優位の1つである。真実こそが組織学習を推進する上で不可欠の要素だ。真実を探求し、お互いに本当のことを伝え合うことによって、私たちは人と組織のパフォーマンスを改善することができる。現実を直視しないことには大きな改善など不可能であり、多大な時間とエネルギーを投資しても成果が上がらない。お互いに真実を伝え合うことができることは、組織における厳しい規律であると同時に、すべての成否を左右する鍵である。
マネジャーの正念場(MMOT:Managerial Moment Of Truth)とは、マネジャーが現実に起こったことを無視するか直視するかの選択を持つ場面を指す。MMOTはそういう正念場において使うことのできるテクニックである。
これは、マネジャーが早いうちに現実をありのままに認識し、必要な手を打つことを可能にするアプローチだ。これによって組織は継続的に改善し、学習し、個人とチームの力を伸ばすことができるようになる。もし組織が誠実さをないがしろにすれば、不正直がはびこり、悲惨な結果を招くだろう。
MMOTとは
正念場には、納期遅れ、未完了プロジェクト、仕事の品質問題などがある。こうした正念場をしっかりと扱っていれば、リーダーシップを発揮してチームの業績を上げ、学びを増進し、深い信頼関係を築くことができる。
実際の正念場は次の二段階で構成される。
・気づき:期待と実態にずれがあるという気づき
・決断:その情報をどう扱うかの決断
気づきの後で、それを無視するか直視するかの決断がある。私たちは、誰かと向き合って嫌な気持ちになったり、居心地が悪かったり、感情的な対立に直面したりすることをできるだけ避けたい。そこで自分に言い訳をして正念場に背を向ける。
MMOTのプロセスは、マネジャーが本当は扱いたいと望む正念場に焦点を当て、時間をかけて効果的に扱うことを可能にする。MMOTでは、次の4つの問いを立てる。
- 何が起きたのか
- どのように、そしてなぜ起きたのか
- 次に活かすために何を学べるのか
- 新しい方法がうまくいっているかどうかをどう知ることができるのか
この特定の形式は、MMOTを行うマネジャーとその相手が、なぜその状況が起こったのかを理解し、その理解から何を学べるかを探求するためのものだ。この論理によって、チームは学習と指導育成に成功する確率を高めることができる。
MMOTの4ステップ
MMOTの基本的なテクニックは次の4つのステップで構成される。
①現実を認識する
最初のステップは、状況を認識することである。認識とは、ただ単にマネジャーの見解を告げることではない。部下も同じ現実を認識することが大切である。ポイントは、両者が現実をありのままに理解することだ。そのためには「トピックを外れない」ことが重要である。それぞれのステップで、そのステップのポイントを達成するまで、主題を変えずに厳密に行う。
人は葛藤を感じるため、単純な事実を認められない。葛藤の感情をおさめようとして現実から目をそらす。この主観的な反応から、現実をありのままに見る客観的な視点へと導いてやるのがマネジャーの役割だ。現実を認めるというのは客観的に真実を述べることであって、自分の主観的感情を交えることではない。
②どのように状況がそうなったのかを分析する
部下がどのようなプロセスで仕事をしたのか考えるのを助ける。ここで大切なのは、どんな意思決定によって仕事をしたのかを探求することだ。どんな想定や思い込みがあったか。その想定や思い込みは正しかったか。どんな計画と実行が実際にあったのか。
これは問題解決の場ではない。相手がどんな思考プロセスを踏んだのかを追っていく。相手の仕事のパフォーマンス分析を助ける際には、次の2つの要素に着目する。
- デザイン(設計):順序、スケジューリング、責任、作業負荷と能力のバランス、仕事のフローなど
- 実行:能力、想定・思い込み、作業習慣、権限委譲、意思決定、役割・ルールの明確度合い、創造性など
実際にはこのどちらかが欠けていることが多い。MMOTは実行よりもデザインに着目することが多い。
③行動計画を創り出す
仕事のプロセスをどうしたらいいかを考える。行動計画がどんなに単純でも複雑でも、きちんと書き留めることが重要だ。何をするのかについて合意するからには、何に合意するのかをはっきりさせる必要がある。行動計画から次の正念場につながる。
行動計画は理にかなっていて、実践的で、実行した時にうまくいっているかどうかを測るフィードバックの仕組みを組んでいる必要がある。
④フィードバックシステムを構築する
行動計画が実際に効果を上げるためには、フィードバックシステムを作り、当人が実行している際にリアルタイムで調整を入れることができるようにする必要がある。このプロセスにおいては効果的なフィードバックを習慣として提供することが鍵となる。