世界一の馬をつくる

発刊
2014年11月26日
ページ数
230ページ
読了目安
242分
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ダービー馬のつくりかた
キズナ、ワンアンドオンリーで2年連続で日本ダービーを制したオーナーブリーダーが、馬づくりの秘訣を紹介。いかにして強い競走馬をつくるのかを語っています。

運は、誰のところにもある

2014年6月1日、第81回東京優駿(日本ダービー)。3年前に生まれた7123頭の頂点に立ったワンアンドオンリーは、北海道新冠のサラブレッド生産牧場「ノースヒルズ」で生まれた。前年のキズナに続き、ノースヒルズの生産馬が日本ダービーを連覇した。

 

牧場を持ったのは1984年。競走馬のオーナーでもあり、生産者でもある「オーナーブリーダー」になって30年でダービーオーナーになる事ができた。「運がいいですね」と、よく人に言われる。しかし、そんな事はない。運は、誰のところにもある。ただ、決断と実行力で、それをつかみ切れるかどうかの違いがあるだけだ。

人は努力を運と言う。陰で流した努力を知らない人には、単に運のいい男にしか見えないだろう。だが、最初から運を持っていたのではなく、試行錯誤を繰り返し、運に出会う事のできる道を探し、そして、ようやく見つけ、つかみとったのだ。

 

成功するまで諦めない

北海道の新冠町で牧場経営を始めたのは、馬主になった翌年、1984年のこと。古い牧場を買い取るよう薦められたが、お断りした。自分のイメージ通りのものを作りたかったので、ゼロから始めたかった。最初に60haの土地を買い、文字通り、原野を切り拓いた。その後、買い増ししたので、現在は125haになっている。

 

牧場を始めてから最初の10年は失敗の連続だった。馬づくりには方程式がないから、10人に訊いたら、10人が皆違う事を言う。ずいぶん無駄なお金も遣い、やめようと思ったのは1度や2度ではない。「素人に牧場経営なんてできる訳がない。どうせ5、6年で失敗するだろう」周囲からはそんな厳しい言葉が浴びせられた。そうした状況を変えるには、自分達がもっと勉強するしかないと思った。

ちょうどその頃、世界一の馬主として知られるドバイのシェイク・モハメド殿下が所有するキルダンガンスタッドに、様々な一流牧場からコンサルティングを依頼されている人物が来ていると聞いた。ドクター・スティーヴ・ジャクソンである。彼に、飼料や栄養管理、運動とのバランスなどコンサルタントとして来てもらう契約をした。

 

馬づくりは「シンプル・イズ・ベスト」をよしとしている。世界トップレベルのスペシャリストが、自分達より進んだ方法を提示してくれるのなら、それに従えばいい。

「どうして成功したのですか」と訊かれたら、こう答える。「成功するまでやり続けたからです」。これは単に「やり続ければ成功する」という意味ではない。途中で諦めたから「失敗」した事になる訳で、諦めていない限り「挑戦中」という過程にいるのだから、「失敗」はしていないのだ。だから、何事も諦める事なく、やり続ける事、やり遂げる事が大切になる。

 

馬づくりは人づくりから

競馬は「血統のスポーツ」と言われているが、良血同士を掛け合わせるだけでは成功しない。馬づくりは農業に似ている。土壌の改良、管理をしっかりやり、そして草を育てる。また、種付けからデビューするまで手塩にかけて育て、競走馬として花を咲かせる、といった過程も農業に通じるところがある。「これがベストだ」という正解がないのもまた面白い。ただ、実りを多くする確率を高める事はできる。

 

基本的に馬の足を能力以上に速くする事はできない。だからこそ、その能力を損なう事なく、そのまま送り出してやりたい。そのために、手をかけなくてはいけないところに、全員が努力を惜しまず、きちんと手をかけてきた。だから、人が育つと馬も走り出す。「馬づくりは人づくりから」なのである。